マーケティングエッセイ – ブログ連載この1年の振り返り

著者:梅下 武彦

ベンチに座るビジネスマン

月2本の記事を定期的に寄稿しはじめておよそ1年がたちました。この間、数多くのみなさまにご笑覧をいただいたようで、大変にありがたく心より感謝を申し上げます。

これまで、書評が16本、マーケティングエッセイが9本の計25本、それらをほぼ交互に執筆してきました。今回、この連載期間の約1年を振り返りながら、厳選記事をピックアップしてご紹介いたします。

「大物3人の最新刊」が発売された年だった

電話をするビジネスマン

この連載中、書評のなかで一番大きなことは、マーケティングや経営戦略の大物3人の最新刊の邦訳が、同じ年(2017年)の後半に刊行されたことです。

フィリップ・コトラー教授の『マーケティング4.0〜スマートフォン時代の究極法則』、クレイトン・クリステンセン教授の『ジョブ理論〜イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』、ジェフリー・ムーアの『ゾーンマネジメント〜破壊的変化の中で生き残る策と手順』です。これら関心の高いお三方を取り上げたおかげで、多くの人たちに読まれたのだろうと感じています。これもセレンディピティというものでしょう。

これらお三方には感謝です。

とにかくこれらの著者は、ビジネスパーソンであればいずれかを手にしたことがあり、また各々の考え方(理論)に共通している関心事は、現在の破壊的変化(イノベーション)といわれている時代にどのような視点が必要か、そしていかに対処すべきなのかということに終点があてられています。

しかも、いずれの執筆者もみな若くない人たちーークリステンセン教授65歳、ムーア71歳、コトラー教授は86歳ーーです。
このお三方は、かつての著書ですでに“一家を成すほど”の影響と名声を得ている人たちです。それでもかつての時代を懐かしんだり激変する時代に抗ったり逃げることなく、むしろこの破壊的大変化を歓迎し旺盛な好奇心でその変化を楽しみ、適応しようと努力している姿勢は見習うべきです。

記事で私が心がけている3つのこと

会議で話すビジネスマン

私は記事執筆で心がけていることが、3つあります。

1つめは、書評においてマーケティングコミュニケーションや経営戦略、さらには社会学や人文系の本など幅広い分野の中から選定し、それら書評を読んでくださるみなさんの思考を刺激してなにがしかの気づきやヒント、あるいは示唆になればと願っていることです。

人によっては、むしろ疑問に感じてご自身で考えてくれたらと願いながら記事を書いています。

2つめは、他の書評とは違う独自の視点と考えることです。ブログを訪問してくださる方々に1つだけでも“持ち帰れるもの”を提供できればということです。私自身の経験や知見と照らし合わせ、あれこれ考えを巡らしながら書いています。私の書いていることが、正しいなどとうぬぼれてはいません。
読書とは、新しい知識を得るだけではなく、わかっていてもそれを確認する作業も必要です。みなさんが、1つでも確信できることがあれば嬉しく思います。

3つめは、記事内容が“風化しない”よう努力することです。新刊や話題の本であれば、本のポイント(読みどころ)やエッセンス(要約)など、世の中には様々なメディアの書評コーナーでも適宜取り上げられます。今日では、ビジネス書専門の要約サイト(bookvinegarなど)もいくつかありますし、利用している人も多いでしょう。そうしたサイトの方がむしろ情報としては役立つでしょう。
旬の時期(新刊や話題の書など)を過ぎてしまっても、私の記事を読んで発見があれば嬉しく思います

また、マーケティングエッセイについていえば、なにごともマーケティングという視点(レンズ)を通して感じたり気がついたりしたことを、自分なりの視点とマーケティング思考に基づいて社会の様々な事象(ヒト・モノ・コトなど)について語りたいと思いながら記事を書いています。

すべての人が読むべきこの5冊

本から飛び出したキャラクターを避ける男性

これまで取り上げた書評16冊のうち、マーケターに限らず是非とも読むべきと私が個人的に感じた著書を下記に5冊選びました。

(1)『ピーター・ドラッカー マーケターの罪と罰』
記事の中で、「もしマーケティングを企業戦略ではなく哲学として取り入れるとすれば、それはドラッカーしかないだろうと私には思えます。」と書きました。詳しくは知りませんが、昨今の経営戦略ではドラッカーは古いということで、米国MBAなどでも教えることはないと聞きます。
データと科学的手法(数値)、合理性と整合性によるフレームワーク(意思決定モデル)で、誰が業務を遂行しても同じような結論が導き出せるものです。こうした状況は、いずれはすべてAIにとって代わられます

しかし、そうした最新理論や方法論は戦略ではあっても哲学たり得ません。あるいはこうもいえるでしょう。本当の戦略とは、理論と心情に基づくものであると。
すなわち、人間に対する深い洞察に満ちたドラッカーの考え方の方がむしろ普遍的なのです。

(2)『私たちはどこまで資本主義にしたがうのか〜市場経済には「第3の柱が必要である」
その最近のMBAに批判的なミンツバーグ教授が著した薄い啓蒙的な1冊です。今日、資本主義経済が世界を覆うグローバリズムがもたらす格差が拡大しています。それは誰の目にも明らかですが、新しい道筋はいまだに見えてきません。

これは、人文学系や社会科学系の思想家や知識人たちからも提案されていません。そうした中にあって、ミンツバーグの提唱する「第3の柱=多元セクター」という視点と発想は、私には大きな示唆となりました。私は、経営戦略関係の書でこれほど読んで良かったと感じる本にはめったに出会いません。
ちなみに、ミンツバーグも若くはなく、御年78歳です。

(3)『デジタル・ジャーナリズムは稼げるか〜メディアの未来戦略』
本書は、世界的なジャーナリストであるジェフ・ジャービスが著した本です。本書は書評としては上編と後編という掟破りの長さになってしまいました。本でも同様なのですが、上下巻がある場合は上巻が売れるそうですが、本編も上編の方が読まれたようです。個人的には後編の方がより多くの人たちに読んでいただきたいことを書いたつもりです。

デジタルな破壊力がメディアにとってなにをもたらしているのかを分析し、これからのメディアとしての覚悟と将来についてどのような策があるのかを述べています。

本書はメディア関係者より、どちらかといえばマーケターに読んで欲しい著書です。私個人の考えを述べれば、今後はソーシャルメディアより、むしろオウンドメディア(企業やブランドによるコミュニティ化したメディア)へのシフト(指向性)を強めるだろうと判断しています。

(4)『ジョブ理論〜イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』
今日では、避けて通ることができない破壊的イノベーション理論の提唱である教授の最新著書は、企業側視点ではなく消費者側からのそれです。デジタルはマーケティングを変えたといわれていますが、それは企業視点だからです。真の変化は実は消費者の購買行動にこそあり、そうした視点を持つべきなのです。

そのことを気づかせてくれるのが本書です。提供者側がどのように考えるかにかかわりなく、いやがうえにもマーケティングは変わらざるを得ないのです。これまでの視点やフレームワークではなく、視点(着眼・着想)を転換することの意義と価値についても大いなる示唆を提供してくれます。

(5)『ゾーンマネジメント〜破壊的変化の中で生き残る策と手順』
スタートアップについての理論(キャズム)を構築したムーアですが、今回はいわゆる“レガシー企業”が、この破壊的イノベーション時代にどのように対応すべきかを説いています。

オープンイノベーションの追い風もあり、新規事業プロジェクトなどにかかわるすべての人たちに読んで欲しい著書で、多くのヒントや示唆が詰まっている内容です。

昨今では、国内大手企業もベンチャーやスタートアップとの協業に注力しています。

マーケティング関係者が読むべきこの3冊

読書をして閃く男性

マーケティングコミュニケーション関係者、それも日々の業務で奮闘しているみなさんにおすすめするのは下記の3冊です。

(1)『コンテンツマーケティング27の極意〜編集者のように考えよう』
コンテンツに対する考え方や戦略や施策など、いくつかあるコンテンツに関する本の中では、もっとも包括的な内容を網羅しています。ソーシャルメディア、自社のコミュニティ運営者が読むとヒント得られるだけではなく、日頃の運用について確認するためによんでも役立ちます。

(2)『ウソはバレる〜「定説」が通用しない時代の新しいマーケティング』
提供者側の都合によるやらせは、どこかで「綻ぶ」ということです。ノンクレジット広告やペイパーポストによるブログなどのステマは、結局は消費者にばれてその対価を支払わされることになります。

(3)『トラクション〜スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル』
16冊の書評中、もっとも実務家向けの本です。私は、こうしたノウハウ的な本は基本的には読むことがほとんどないのですが、この本は私自身も得ることが多くありました。

読書は、新しい知識や情報を得ることだけではなく、自分の経験などによる考え方とやり方が正しいか否か、それらについて確認や確信する作業でもあるのです。
常にそばに置いてチェックリスト的に使うとよいのではないでしょうか。

読んで欲しいマーケティングエッセイこの3本

タブレットを見る男性

(1)「自己PR」という言葉、もうヤメませんか
この言葉にはずっと違和感を感じていたので、それについて書きました。自己PRというのは言葉としては完全な矛盾です。

PR(Public Relations)とは、本質的に第三者をして語らしめることです。自分で自分の良さを伝える行為は、宣伝だということを自覚するべきでしょう。

(2)「顧客志向」について、あらためて考えたこと
約30年にわたる私のマーケッター歴を振り返るような記事です。マーケティングコミュニケーションは、広告代理店のブレーンマーケター(下請け)をしていた時代とは比較にならないほど破壊的変化をしました。

最初はずいぶんと戸惑いましたし、発想の転換をするにはそれなりに年月も努力も私には必要で、実務上ではずいぶんと試行錯誤もありました。
そうしたことを振り返るような内容となりました。20代半ば、最初にマーケティングに興味をもったとき、これほど大激変するとは予想すらしませんでした。

ただ、私にとってはこの激変は貴重な経験でありむしろ感謝したいことでもあります。

(3)「手帳3.0」デジタル社会で人気が高まる「手帳文化社会」を考える
いまだにアナログ vs デジタルという二元論や二項対立軸で考えたり判断したりする人がいます。しかし、何事においてもメリット/デメリットはあるものです。

書くという行為——メモやノートを取る、文章を書くことーーにも、インプットとアウトプットがあり、同じようで各々役割の違いがあります
前者は、文字、記号、図表や図解、イラストなどフリーハンドのひらめきで書けるのがメリットです。
後者は、入れ替えたり並べ替えたり修正や訂正が簡単ですし、表現する(第三者に伝えたり見せる)という点では最適です。

この1年ほど、私の書評とマーケティングエッセイの記事をご笑覧いただいた皆さまには、重ねて心からの感謝を申し上げるとともに、引き続き本ブログと記事をお楽しみいただければ幸甚に存じます。