マーケティング「思考」とマーケティング「マインド」について考える

Date: 2018.11.01
Category: 広報/PR全般
Written by: 梅下 武彦
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今日では、マーケティングコミュニケーション(以下、マーケティング)がとても重要であることーーこれはイノベーションも同様ですねーーは、どの企業や組織においても理解されています。それはNPOなどの非営利団体でも同じことがいえるでしょう。

また、かつてはマーケティングにかかわる部署(製品開発、マーケティングリサーチ、広告・宣伝、販売促進、PRなど)だけが担当すべきことと思われていた時代から、すべてのビジネスパーソンにその資質が求められるほどの現在の状況ともなっていることに異論を挟む人もいないでしょう。

私自身、長らく様々なマーケティング業務にたずさわってきましたが、いまほどその重要性が認識され必要とされている時期を知りません。

今回、マーケティングが重要といわれるようになったことで、あらためてマーケティング「思考」とマーケティング「マインド」というテーマについて、私なりに考えていることを述べます。もしも、少しでもみなさんに気づきやヒントにでもなれば嬉しく思います。

マーケティング大転換における「3つの要因」

円グラフ

ここ数年、とくに21世紀のマーケティング(リサーチ含む)業界では、下記のような新しい考え方や手法が続々と提唱されてきています。

アドボカシー・マーケティング:
顧客の立場に立ち、自社の利益優先ではなく信頼関係を構築する

ペルソナマーケティング:
架空の典型的な顧客像を想定する

フラッシュマーケティング:
割引価格や特典付きクーポンをネットで提供する

ジオロケーションマーケティング:
利用者の位置情報を活用する

リードナーチャーマーケティング:
顧客の啓蒙や育成、購買意識へと高めていく

リードジェネレーションマーケティング:
CRMなどを活用し、見込客となりそうな消費者を抽出する

エスノグラフィックマーケティング:
人類学の手法を応用する

ニューロマーケティング:
脳科学を活用する

インバウンド(コンテンツ)マーケティング:
有益なコンテンツをネット上で提供し、消費者自身に発見してもらう

行動観察:
本人の意識していない潜在意識に潜む事実を引き出す

そのほかにも「ビッグデータ」、「コーズマーケティング」、「カスタマージャーニー」、「ゲーミフィケーション(ARG含む)」など、実にマーケティングに関連した多様な言葉が飛び交っています。

全体的な印象としては、それまで経営戦略的な視点からのマーケティングだけではなく、消費者のあらゆる行為(購買行動や心のありようなど)を認知(脳)科学や位置情報なども駆使して総合的に扱おうとする傾向が強くみられると同時に、マーケティングというものがどんどん拡張して学際的になっています。

つまり、マーケティングで扱う範囲が際限なく拡大しつつあるのです。今後ともそうした傾向は続くでしょう。マーケティングがこれほどまでに大激変し多様かつ複雑となっている理由は、私自身は3つの要因があると考えています。

イノベーションテクノロジー

第一に、市場(消費者)の成熟化です。これはすでに1980年代半ばごろから喧伝されている先進国共通の課題です。広告が効かなくなったとも言われ出し、最初に日本でもマーケティングが意識され出したころだと私は経験的に感じています。購買行動において、それまでは供給者側にあった主導権が消費者に移行しはじめた時期で、今日ではあらゆる消費行動が消費者イニシアティブの市場環境となっています。私は、これを「消費者主権」(セルジオ・ジーマンは「消費者民主主義」と表現)と呼んでいます。

それだけに市場の競争は苛烈であり、マーケティング戦略の巧拙が企業の生命線となっています。

第二に、いわゆるグローバリズムです。1989年の「ベルリンの壁崩壊」以後、米国が主導する新自由主義が台頭してそれまでは先進国間だけの競争だった市場環境が、台頭してきた新興諸国も巻き込んだ競争へと変化してきました。とくに2000年代半ば以降はデジタル化の加速で、家電製品などの日本が得意としていた製品分野は、ことごとく新興国(韓国、台湾、中国など)に主導権を握られる状況となりました。

第三に、テクノロジーの進歩がもたらしたコミュニケーション環境の変化です。1995年にインターネットの一般利用が可能による最初の大きな変化があり、2007年のスマートフォンの登場でさらに転換しました。それに加えてソーシャルメディア、デジタルサイネージなどの利用などもあり、情報に接するあらゆる環境(顧客との接点づくりなど)、購買行動が大きく変化しました。私はそうしたコミュニケーションにおける大転換をCommunication Metamorphosesととらえ、今日のライフスタイルをDigital Ambient Societyと考えていることは折に触れて述べてきました。

上記の3つの激変が不可避的にイノベーションのうねりとなり、マーケティングにおける新しいエコシステム創出が必要とされている理由だと判断しています。

テクノロジーがマーケティングを進化させてきた

バーチャルパネルをタッチするビジネスマン

今日では、大型書店に出向けばマーケティングコーナーがあり、入門書から専門書にいたるまで実に数多くのそして多様なテーマを扱っている本が並んでいます。

これまでにも、本ブログでは初期(2年前)の書評『ビジネスで一番、大切なこと』をはじめとし、マーケティングの考え方や視点についてみなさんのお役に立つだろうと思われる著書を、新刊・既刊と問わずいくつも取り上げてきました。

それらを振りかえってみると、マーケティングそのものについて再考をうながす、企業の戦略からとらえ直す、消費者の視点から考える、差別化の本当の意義と価値、ブランドについて、ウェブのコンテンツのあり方、イノベーションとの関係性など、こうしてみると実に多様だと感じています。

20世紀において、マーケティングでは2つの大きな転換点がありました。

1は、小売業のPOSシステムです。これにより単品ごとの売れ筋の把握や集計が、販売者(企業)側から可能となり、それに基づいてマーケティング施策を実行できるという環境になりました。

2には、顧客の囲い込みのための施策です。FSP(フリークエンシーショッパーズプログラム)ーー企業や店舗の発行するポイントカードやマイレージプログラムなどーーはその代表格で、利用ごとにポイントが貯まる仕組みでそれを他の利用時に現金の代わりや割引として提供する仕組みで今日では日常化している施策です。その目的は、利用者の個人情報の取得と購買履歴の把握などで、これもマーケティング施策に活用できるようになりました。

こうしたテクノロジーの進展は、企業や組織のどの部門にもイノベーションを否応なしにもたらしてきましたが、その影響(恩恵)をもっとも受けたのはマーケティング部門でしょう。マーケティングの変化は、1980年代中頃から米国では顕著になってきたように感じていますが、その主目的は顧客の囲い込み、生涯価値(LTV)など企業中心にして展開してきました。

ところで、近年の米国企業では、多くの企業でマーケティング部門出身者がCEOに就くケースが見くけられます。しかし、それは2000年以降に顕著に見られる傾向だということをどこかの記事で目にした記憶があります。

顧客の声を聞く企業、聞かない企業

SNSのグローバルコンセプト

ソーシャルメディアが日常の今日では、その活用方法として情報発信より優先すべきは顧客の声に耳を傾けること(傾聴)だとされています。しかし、なんでもかんでも、顧客の意見を聞くことがよいわけではありません。

では、どういうときに聞き、どういうときに聞くべきではないのでしょうか。前者は、おもに既存製品でリニューアルなどが対象で、後者はこれまでにないプロダクト(製品やサービス)を市場に投入する時です。

よく事例で引用されるのは、馬車が主流だったころにどういう馬車が欲しいのかと利用者に訪ねると「もっと早い馬が欲しい」と答えるというものです。そこでは、利用者に自動車という発想はありません。

同じようなケースではトランジスタラジオがあります。戦前や戦中の時しかしらない人たちは、ソニーが最初に製品化したポケットに収まるラジオ(1957年)というのは想像もしなかったでしょうし、後のウォークマンについてもいえます。

しかし、そうした数年に一度市場や業界を刷新してしまうほどのプロダクトは、天才の出現や偶然性がもたらすイノベーションに頼るしかなく、一般ビジネスでは適用が適切だとはいえません。本ブログの読者には、書評でも取り上げたジェフリー・ムーアの「【書評】ゾーンマネジメント〜破壊的変の中で生き残る策と手順」、クレイトン・クリステンセン教授の【書評】ジョブ理論〜イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム」でも納得していることに違いありません。

4PやSTPよりも大切なこと、そして「チーム力」

ビジネスチームミーティング

最初に述べたように、マーケティングで進行しつつあるテクノロジーと学際化で、すでに一人の人間だけでそれを担当することが困難になりつつあります。

しかも、今日ではマーケティングにおける「思考」も常にアップデートしなければなりません。マーケターは、専門知識や最新のさまざまな情報を取得し吸収することが求められていますが、それだけでは十分ではありません。

ひとりの消費者あるいは顧客として利用者の立場や気持ち持つことが、ビジネスにかかわるあらゆる人たちに必要とされています。

一言で述べるならば、マーケティングにおいて重要なことは、それについての深い知識や理論ではなく、顧客の立場(気持ち)を理解することです。これは私のむかしからの勝手な持論なのですが、「マーケターとは頭は企業に、心は消費者におくこと」ということです。今回のテーマに則していえば、前者はマーケティング「思考」で後者がマーケティング「マインド」ということになります。自社の競争力や優位性を確保する思考をめぐらしながら、いままで当たり前のように受容しながら見過ごされてきたものを異なる(新しい)視点からとらえ直すこと、そうした心のあり方こそが「マインド」なのです。

そもそも、革新的なプロダクト(製品やサービス)は、ある一人の気づきや発想がもたらしたことかもしれません。しかし、それを製品化して市場に投入するようになるまでには「チーム力」が必要なことは、きっとみなさんも同意することでしょう。

たとえば、ビッグデータの登場で、それを専門的に扱うデータサイエンティストという新たな職種が求められるようになりました。これからのマーケティングには「チーム力」が必要です。これはマーケティングに限らず、シリコンバレーのスタートアップなどでも、どのようなメンバー(チーム)で起業するのかが重要と言われていることについては、すでに本ブログでも述べました。

今日では、マーケティング「思考」だけではなくその「マインド」も不在な企業では、市場や消費者からの支持や信頼は得られないことだけは確かです。しかも、これからもマーケティングは変化(イノベーション)し続け加速していきます

以下に、そうしたマーケティングについての4人の箴言をご紹介します。時代の変化や状況にかかわらず、どれも気づきや洞察に満ちています。これらの言葉はどれもマーケティングの定義や機能ではなく、本質やそのあり方について述べているように私は感じられます。

(1)“マーケティングは事業全体を完全に包含する。それは最終成果の観点、つまり顧客の観点から見たビジネスのすべてである。それゆえマーケティングに対する配慮と責任は企業全体に浸透していなければならない。”(ピーター・ドラッカー『現代の経営:上・下』原著:1954年、邦訳:1965年ダイヤモンド社)

(2)“マーケティングはあまりにも重要なので、マーケティング部門だけに任せておけない。優れたマーケティング組織では、だれがマーケティング部門の人間なのか区別がつかないものだ。組織に属する一人ひとりが、顧客への影響を考えたうえで判断を下さなければならない”(HP共同設立者デビッド・パッカードの言葉)

(3)“性急にマーケティング部門やマーケティング・チームを編成しても、真のマーケティング文化を根づかせることはできない。たとえ、この上なく有能な人物をその職に就けたとしても無理である。マーケティングは経営トップに始まる。経営トップが顧客志向の必要性を確信していないとしたら、社員がマーケティング・アイデアを受け入れ、実践することなど、どうしてできよう”(コーネル大学フィリップ・ネート教授の言葉)

(4)“独創的。ーー何か新しいものをはじめて見ることではなくて、古いもの、旧知もの、誰もがこれまでに見てきたもの、あるいは見過ごしてきたものを新しいものであるかのように見ることが、ほんとうに独創的な頭脳を特徴づける所以である” (ニーチェ『人間的、あまりに人間的Ⅱ第二部「さまざまな意見と箴言」』)

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