ポジショニング戦略:たかがボールペン、されど奥深いボールペンーーその「差別化」についての覚え書き

Date: 2021.07.26
Written by: 梅下 武彦

ステーショナリーを取り上げるのは2回目です。約3年前、マーケティング視点で手帳について考えた「手帳3.0」を書きました。

今回は筆記具、それもボールペンです。

三菱鉛筆「ジェットストリーム」が「OKB(=お気に入りボールペンの略)48選抜総選挙」において、10年連続で第1位に選ばれ10連覇を達成してその揺るがぬ絶対王者の強さを見せつけました(2位は「ブレン」)。

「OKB48選抜総選挙」は2011年に設けられたイベントで、各筆記具メーカーが販売しているボールペンの中から 48 本を選抜し、そのなかから消費者が「お気に入りのボールペン」を投票して決定するもので、それほどまでにボールペンは人気の高い筆記具となっています。

ここのところボールペンは、2018年発売されたゼブラの「ブレン」にさまざまなメディアの話題が一極集中の様相を呈しています。また実際に使っている人たちの記事に接する機会も多く、それらを読むとすこぶる評判が高いです。

とにかく、筆記時のブレがないことによる書きごこちについてだれもが評価しています。

私自身、筆記時の微細な振動によるブレということはこれまで考えたことがなく、「ブレン」が発売されてはじめてそういうことがあるのかと知ったほど実は無頓着です。

私は文具や筆記具に詳しいわけではありません。ボールペンの誕生した経緯やその歴史についても、くわしい事情通がいます。

また今日では、文房具や筆記具にくわしい評論家や研究家、コンシェルジュなどもいますし、そうした専門家たちにとっては私の書くことは常識的なことかもしれません。

ですからボールペンについて書くといっても、インクや書きごこち、ボディ(ペン軸)素材とそのデザイン性ではなく、マーケティング視点で考えたことです。

私は、筆記具ではボールペンが一番好きです。むしろ、日常的に使用しているだけに関心を持たざるをえません。

このブログは、それについて考えてみるただのボールペン好きなひとりのマーケターの覚え書きだということをご承知のうえで、なにがしかの気づきや参考にでもなれば嬉しく思います。

もっとも使われている筆記具ボールペン

ノートにメモする女性

ボールペンは、もっとも使用されている筆記具だということは、おそらく誰にとっても異論はないでしょう。幼い子どもや小中学生であれば、鉛筆またはシャープペンシルでしょうが、大人になればだれでもポケットにかならず忍ばせている筆記具がボールペンです。

ビジネスにかぎらず、日常生活のなかでも筆記具として通常はボールペンが使用されています。文字の太さもその人の好みで自由に選べ、万年筆などに比べて安価でメンテナンスがほとんど不要なのもありがたく、さらにコンビニ、スーパー、ドラッグストアから駅の売店にいたるまで、いつでもどこでも必要なときに手軽にすぐに購入できるのがボールペンです。

一方で、それなりの文房具店でないと購入できない海外ブランドの高級品もあります。

英国王室御用達のPARKER、米国の歴代大統領が愛用しているCROSSなどは、その代表格です。前者については、2018年に「ジェットストリームプライム」から「パーカー」の回転式繰り出しボールペンでも利用できるリフィルが発売され、驚喜した人は多いのではないでしょうか。後者は、いうまでもなく大統領就任式から日々の執務での書類への署名まで、同社のボールペンがいつでもその手にあることで有名です。

これら高級海外ブランドは、なにより手に馴染んでリフィル交換すれば一生使用ものです。

またボールペンは、企業名や製品名などのロゴを印字したギブアウェイ(ノベルティ)商材としてもっとも活用されています。イベントに参加したり、なにかの記念品としてだれでもがもらったことがあるはずです。

デスクのペン立てや引き出しにはおそらく何本かそうしたボールペンがあり、人によってはそうしたもらい物ですませ、自前で購入したことがほとんどないという人もいるかもしれません。

正確に数えたわけではありませんが、私の手元にもそうしたもらい物が7〜8本ほどあります。それほどまでに、さまざまに利用されている筆記具がボールペンなのです。

「インク」が競争戦略の基本

カラフルなボールペン

「世界が認める27億2,925万本の必需品」という記事によると、日本は国内・海外向けに出荷されているペン類(油性・水性ボールペン・マーキングペン・シャープペンシル)は、合計本数で27億本を越えています。

また、もっとも出荷数が多いのは水性ボールペンです。私はてっきり油性ボールペンだと思っていたので意外でした。日本筆記具工業界の統計データでも、販売本数・販売金額ともに水性ボールペンが油性のそれを大きく上回っています

ここで、21世紀になって話題やヒットしたボールペンをちょっと振り返ってみると、以下ようになります。

2003年 三菱鉛筆「ジェットストリーム」(低粘度油性インク)
2007年 パイロット「フリクションボール」(ゲルインク)
2008年 パイロット「アクロボール」(低粘度油性インク)
2018年 ゼブラ「ブレン」(低粘度油性インク)

上記は私が気になって、実際に使用した人の記事をメディアで読んで覚えているものですし、文房具にこだわりがない人でもその製品名は知っているに違いありません。

ここにパイロットのゲルインク系「フリクションボールペン」(2007年発売)がないと思う人がいるでしょう。この世界初の消せる画期的なボールペンを、私は使ったことがありません。

上記以外にもありますが、文房具の専門家ではないのでここではくわしくは触れません。

ボールペンには油性インク、水性インク(顔料インク系、染料インク系)、ゲルインクなど、異なるインクの種類を選べることがほかの筆記具にはない大きな特長です。

もとより、インクだけではなくペン軸の構造とその素材、そのデザインや書き味なども製品としてみれば重要な要素はあるのですが、やはりインクとその書きごこちこそが競争戦略の“軸”だと思います。

また、水性、ゲルの両インクはなめらかで色も多彩で調整しやすく、ブルーブラックなど万年筆のインク色が好きな人には嬉しく、現在では速乾性にもすぐれ指でこすってもかすれるようなこともなくなり、色も油性よりは多彩(とくに水性)なので、女性には人気が高く年々ユーザー数が増加しているのだろうと思います。

私は水性インク(ゼブラ「サラサクリップ」)、ゲルインク(ぺんてる「エナージェル」)のボールペンも持ってはいますが、圧倒的に油性インクペンの使用率が高く、とくに3色(黒・青・赤)タイプをつねに愛用しています。

20代のころからBicの3色ボールペンを利用していたので、3色タイプは手放せません。私がふだん使用しているボールペンは、メーカーに関わりなくすべて3色タイプです。

各社のボールペン・ポジショニング戦略

たくさんのペン

三菱鉛筆が「ジェットストリーム」という低粘度インクボールペンを開発し、それからは私も使用し続けています。現在、私が愛用しているボールペンは以下の5つです。

(1)「ジェットストリーム」(三菱鉛筆:2003年発売)
(2)「アクロボール」(パイロット:2008年発売)
(3)「ブレン」(ゼブラ:2018年発売)
(4)「Bicクリックゴールド」(BICジャパンン:2021年発売)
(5)「モノグラフライト」(トンボ鉛筆:2021年発売)

(1)は、いわゆる低粘度インクの先駆けとなった革新的な製品で、もっとも売れているボールペンです。油性インクはそれも大差ないと思われていましたが、低粘度インクがすべてを変えてしまいました。

私もはじめて使ったとき、油性インクなのにそのなめらかさに驚きました。現在では、競合他社も低粘度油性インクのボールペンを販売しているほどですがやはりそのブランド力は不動の人気で、インクだけで考えれば、国産の低粘度インクに勝てる海外製品はありません。

低粘度タイプではもっとも長く愛用し、ポケットにカバン、手帳とそれぞれ必要に応じて数本をもっています。プライム 3色ボールペンと3色(黒・赤・青)、スリムな軸デザインの 3色 スリムコンパクトがとくに気に入っています。

(2)は、同じく低粘度インクです。これを使うようになったのは青色が気に入ったからです。ほかの2色(黒と赤)はそれほど違いはないのですが、青色が際立っています。「ジェットストリーム」だと、黒と青の違いは少し暗いとどちらの色かは判別できないのですが、「アクロボール」では視認しやすいことがその理由です。

書き心地もほぼ(1)と同じなのも理由ですが、ボール径が0.5と0.7mmしかなく1.0mmを販売していないのが残念です。

(3)は、2020年になって3色タイプのボールペンが発売されたので、噂のぶれない書きごこちを体験したくて購入しました。同製品は、筆記時の微細な振動(ブレ)によるストレス発生を解消するという点に着目し、ペン機構の振動を制御する「ブレンシステム」を開発したことが大ヒットにつながりました。

ペン軸のデザインもこれまでにない斬新さで、2019年度の「グッドデザイン賞」を受賞したことも大きな話題となりました。使用頻度が高い黒インクのノックを他の色のノックより大きくし、また3色タイプも単色のブレンと同サイズのスリムなボディにしたということも使用している理由です。

とくに、手に持ったメモ帳や手帳に書き込む際、ブレないありがたさが際立ちます

(4)は、もっと愛用年数が長いBicのボールペンです。ようやく待望の超低粘度油性インクを採用した新製品が発売されました。3色ではなく、しかもいまのところ低粘度油性インクはボール径0.5mmだけのようで、この細さは好みではないのですがBicなのでどうしても書き味を試したくて購入しました。

一刻も早く、3色タイプの低粘度油性ボールペンの発売が待たれますね。

(5)は、こちらはトンボ鉛筆から発売されたばかりの新製品。ペン先が針(needle)のように細いニードルチップを採用し、ペン先周りの視界が広いことが特長ですが、ほかにも筆記時の摩擦抵抗が同社従来品比で約10%、業界標準で約20%低く、先端ボールスプリングレス化と筆記時に紙面へ付着するインクのボテが、同社の従来製品比で約1/2に低減したという「期待大」な新製品です。

油性インクに残されている最大の課題と差別化

万年筆で試し書き

ボールペン市場は、インクの開発競争(低粘度油性インク)、超極細のボール径(0.28mm、0.38mm)はともに「ジェットストリーム」が先駆的な製品を開発し、競合他社もそれに“追随した製品”を投入しています。

もとより、「アクロインク」(アクロボールペン)、「エマルジョンインク」(ブレン)など、各社とも独自の低粘度油性インクでの“差別化”を図った製品を発売していますが、それでは「我が社も!」という差別化という名に隠れた同質化の印象です。

いくつかのボールペンの比較記事を見ると、やはり「ジェットストリーム」に軍配が上げられています。つまりインクだけでは差別化にはならないのです。

「ブレン」は、インクやボール径など同じ土俵で競争するのではなく、筆記時の微妙な振動(ブレ)が筆記時のストレスとなっていることに着目し、それを解消するペン軸の構造(機構)を開発し、従来品とは異なる斬新なデザインを取り入れたことで「真の差別化」つまりそれは独自性で、これほどまでに消費者の支持を得て大ヒットしています。

そのことが、発売からわずか2年で不動の人気の「ジェットストリーム」を脅かす唯一のライバルとしての地位を手に入れたのです。

我が道を行く」=独自性というのを求めることがいかに重要であるかがわかりますし、このボールペンというありふれた筆記具からも、それがいかに市場において競争優位性を確保するには重要なのかが理解できます。

アップル社やダイソーなどでも顕著なのですが、No.1を獲得することもけっしてやさしくはありませんが、Only Oneはそれよりむずかしくもあり、着眼点さえ変えれば同時に容易でもあります。

競合他社のヒットを真似することは、発想としても製品化にしても比較的簡単です。ほかにはない「何か」に気づくか発見あるいは創出するのは難しいのですが、それが独自性につながり強みを発揮します。

その「独自の強み」がひとたび消費者を魅了すれれば大ヒットになります。しかしもし消費者の支持を集められなければ、ニッチな市場に甘んじてしまうリスクもあるのです

「ブレン」の飛ぶ鳥を落とす快進撃は、まだ当面は続くと思います。

さまざまに差別化(競争優位性の確保と維持)のために開発競争にしのぎを削るメーカー各社のボールペンですが、それでもいまだに残された最大の難問があります。

それがインクのボテ(ペン先に溜まる油性インクが「ボテッ」と書いた紙に付着する)問題です。振動によるストレスより、インクボテのそれのほうがはるかに大きいのです。

これは書いているとどうしてもできるので、適宜ボール先のインク玉を拭き取る手間があり、それが油性ボールペンの避けがたい最大の弱点でもあります。

なかでも、比較的大きいボール径(0.7mmと10.mm)を使用している人には大きな問題です。ほかのゲルインクとくに水性インクでは、そうした問題はほとんどありません。

メーカー各社のインクによって多少の違いはあっても、油性インクは「かならずボテる」のです。

これは油性インクの宿痾のようなもので、安価製品か高級品かにかかわりません。ですからノートなどで油性インクを使用すると、閉じたときに反対側ページにそのボテ沁みがあちこちに斑点のようについて汚くなってしまうのです。

はっきりといえば、低粘度インクのほうがむしろ普通の油性のそれよりボテが多いです。私はいまでも、BicやCROSSのような昔ながらの油性ボールペンを時々は使用しているので、国産の低粘度油性ボールインクは書き出しのなめらかさは認めるのですが、インクボテがどうしても多いと実感しています。

ですから、女性はとくに色もさることながら水性ボールペンを好むのだろうと思います。

どこのメーカーがこのインクの「ボテ問題を解決」するのか。それが油性ボールペンに残された最後の課題です。どこが最初にそれを解決するのか。

また、ボールペンの振動抑制機構によるボールペンをほかの競合メーカーも“追随”するのかからも目が離せません。

さらに、私は使用経験がないのですが、現在は3製品しかない「加圧式ボールペン」もあり、それも忘れてはいけません。

こうして考えてみると、ほかの筆記具にくらべ、独自インク開発やボール系の細さを競う、筆記時の振動の抑制技術など、ボールペンには製品としてのイノベーションの余地がまだ残されています

さて、このボールペン最大の難問(インクのボテ)を最初に解決してくれるのも、おそらくは日本のどこかの筆記具メーカーだろうと思います。

今回、日常のなかでなに気なく使っているありふれた製品やサービスでも、マーケティングに引き寄せて考えてみると、着眼・着想の重要性、そしてそれが独自性とどのように結びつくか、本当の差別化(それはつまり独自性)について認識など、マーケティングで考える楽しさが伝わったなら幸いです。

さてみなさん、ボールペンは何をお使いですか?

(関連リンク)

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