インナーマーケティングとは、単なる「社内向け施策」ではありません。
企業のブランドやメッセージを、社員一人ひとりが正しく理解し、自分の言葉と行動で体現できる状態をつくるための、広報・PRに直結する重要な取り組みです。
リモートワークや多拠点化が進む今、社内の理解不足や認識のズレは、そのまま社外への発信の弱さやブランド毀損、従業員のモチベーション低下につながります。
本記事では広報のプロの視点から、インナーマーケティングの意味や必要性、具体的な施策や事例までを体系的に解説します。
インナーマーケティングとは何か

「インナーマーケティング」とは、社員を「内部顧客」と捉えて企業価値やブランドの魅力を伝え、社員の主体性向上、さらには社外との信頼醸成につなげていくための取り組みです。
仮に、企業が社外にどれだけ優れたブランドメッセージを発信していても、社員がその意図や背景を理解していなければ、現場での発言や行動にズレが生じてしまいます。
インナーマーケティングは単なる人事施策と誤解されがちですが、社外向けの広報・PR・マーケティングと強く結びついています。社員が企業の価値を理解し、自然に語れる状態をつくることこそが、強いブランドの土台になるのです。
インナーマーケティングが注目されている背景
インナーマーケティングが注目される要因の一つに、SNSやオウンドメディア、プレスリリースといった企業の発信チャネルが増えたことで、社員一人ひとりが「ブランドの担い手」になっていることがあります。
現場の社員の発言や行動が、意図せず企業の評価を大きく左右するケースも珍しくありません。前述の通り、社外向けのメッセージと社内の理解にズレがあると、「言っていることとやっていることが違う」と受け取られ、ブランド毀損につながるリスクも高まります。
社外発信の成果を最大化するためには、まずは社内の理解と協力体制が不可欠なのです。
インナーマーケティングと混同されやすい概念
インナーマーケティングには、似た概念や混同されやすい言葉が多くあります。ここでは代表的な概念との違いを整理しましょう。
| 主な対象 | 目的 | 特徴・ポイント | インナーマーケティングとの関係 | |
|---|---|---|---|---|
| インナーマーケティング | 社内(社員) | 理解+行動変容 | 理念や方針を理解した上で、日々の業務・発信・行動にどう落とし込むかまで設計する | 中心となる考え方 |
| インナーブランディング | 社内(社員) | 共感の醸成 | ブランドの理念・価値観を社内に浸透させ、共感を得ることが主目的 | インナーマーケティングの前段階。共感を行動につなげるのがインナーマーケティング |
| アウターマーケティング | 社外(顧客・市場) | 認知・理解・購買促進 | 広告、PR、SNS、キャンペーンなど社外向け施策が中心 | インナーマーケティングで社内を整えることで、効果と説得力が高まる |
インナーブランディングとの違い
インナーブランディングは、ブランドの理念や価値観を社内に浸透させ、社員に共感してもらうことを主な目的としています。
一方でインナーマーケティングは、理解した上で、日々の業務や発信、行動にどう落とし込むかまでを設計します。
ブランドに共感するのみでなく、その先の行動変容までを具体的に考える点が、インナーブランディングとの大きな違いです。
両者は対立する概念ではなく、連続した取り組みとして捉えることが重要です。
ブランディングの種類についてはこちらの記事で解説しています。
ブランディングはいつやるべき?タイミングで差がつく成功戦略
アウターマーケティングとの違い
アウターマーケティングは、顧客や市場など「社外」に向けたマーケティング施策を指します。
しかし、社内理解が整っていない状態で社外施策だけを強化しても、発信するメッセージは表面的になりがちです。現場の対応や社員の言動が伴わなければ、せっかく発信しても信頼を得ることはできません。
インナーマーケティングによって社内の理解と行動を整えることで、アウターマーケティングの説得力は大きく高まります。この両輪を回す視点が、マーケティング活動には欠かせません。
アウターマーケティングの手法はこちらの記事で解説しています。
マーケティングコミュニケーションの手法は?戦略で成功した事例も紹介!
なぜインナーマーケティングが必要なのか

マーケティングは社外に対する活動と思われがちですが、なぜ社内に対しても行う必要があるのでしょうか。
ここでは、インナーマーケティングが重要な理由を3つ説明します。
①社外への発信内容を統一するため
社員がブランドや方針を理解していないと、現場での説明や対応にバラつきが生じます。
その結果、社外に発信するメッセージと実態に乖離が生まれ、企業の信頼低下につながるおそれがあります。
特にリモートワークや多拠点体制では、意識的に情報を共有しなければ、認識のズレは拡大しやすくなります。
インナーマーケティングは、こうしたリスクを未然に防ぐための重要な施策と言えるでしょう。
②社員が自社の価値を語ることがPRになるから
もう一つの重要な理由は、社員自身が自社の価値を語ることが、最も自然なPRになるからです。
社員のリアルな言葉には、広告やプレスリリース以上に説得力があります。社員が自発的にこうした発信を行える状態になるためには、企業の価値や方向性を「知っている」だけでなく、「腹落ちしている」状態が必要です。
インナーマーケティングは、その土台をつくるための取り組みだと言えるでしょう。
③働く場所が分散するほど、認識のズレが生まれやすいから
さらに、リモートワークや全国各地の支社・海外拠点がある企業では、意図的に設計しない限り社員同士の接点が減り、エンゲージメントが下がりやすくなります。
こうした環境では、社内に向けて「何を大切にしているのか」「どこを目指しているのか」をこれまで以上に丁寧に言語化し、共有し続けないと、価値観や認識のズレも広がってしまいます。
そのため、単なる情報共有ではなく、判断基準や行動の軸を揃えるためのインナーマーケティングが欠かせません。
シェイプウィンも海外拠点を持ち、リモートワークを取り入れた働き方を実践しています。その中で、社内コミュニケーションやエンゲージメント設計に継続的に取り組んできました。
その結果、TOKYOテレワークアワード推進賞の受賞や、ホワイト企業アワード「柔軟な働き方部門」の受賞といった評価にもつながっています。
本記事では、こうした実践の中で培ってきた考え方や経験値も踏まえて解説しています。
インナーマーケティングで得られる効果

インナーマーケティングは、単に社内のエンゲージメントを高める施策ではなく、広報・PRの土台を整えるための活動です。
ここでは、その代表的な3つの効果を整理します。
①ブランドメッセージの一貫性向上
インナーマーケティングによって、ブランドの核(パーパス・価値提供・方針)と、それらの言い回しや表現が共有されると、経営層から現場まで発信に一貫性が生まれます。
結果として、メッセージがブレない会社として信頼を得やすくなります。
②社員エンゲージメントの向上
社員が会社の方針に納得することで、自身の仕事とのつながりが見え、当事者意識が醸成されます。
その結果、情報提供や取材協力がスムーズになるだけでなく、現場から「こう伝えたほうが良い」「この事例は外に出せる」といった前向きな提案も出やすくなるでしょう。
③広報・PR施策の効果最大化
社内の協力を得やすくなると、広報・PRの「企画力」だけでなく「実行力」も伸びます。
たとえば、プレスリリースの素材集めや取材対応が早くなり、発信の鮮度が上がります。さらに、社外発信を社内にも共有しておくことで、現場の対応が発信を後押しし、PR自体も強化されます。
また、外向けの活動が、社員の自信や誇りを育て、さらなる協力につながるという好循環も生まれます。
インナーマーケティングのやり方

インナーマーケティングでは、最初から「社員に発信してもらう」ことを目指すとうまくいきません。
マーケティングの観点から、認知→納得→行動の段階を設け、社員の状況に合わせて施策を設計することが重要です。
フェーズ1:認知・理解
最初の段階は、会社の方針やその意図を「知ってもらう」ことです。
経営メッセージをただ発信するだけでなく、なぜ今この方針なのか、背景に何があるのかをストーリーとして共有し、社内の理解を促しましょう。
広報としては、社外向けの言葉をそのまま流用するのではなく、社内向けの言葉遣いに整えるのがポイントです。この段階での理解が浅いと、後の施策が意味をなさなくなってしまいます。
フェーズ2:共感・納得
次に必要なのは、「それが自分の仕事とどう関係するのか」を理解してもらうことです。
同じメッセージでも、営業・開発・バックオフィスでは刺さり方が違います。
部署別・役割別に、具体的な行動や判断の基準に落とし込み、納得できる形に整えることが重要です。
ここで有効なのが、具体的な事例を共有したり、対話の機会を設けたりすることです。自身の業務との関連を具体的にイメージできるほど、企業の理念や方向性に納得感が生まれます。
フェーズ3:行動・発信
最終段階は、社員が自発的に動き、発信できる状態を作ることです。
社員に、ただ「SNSで発信して」と言っても動きません。発信の目的、守るべきガイドライン、紹介して良い事例、使って良い表現、困ったときの相談先まで、安心して動ける仕組みが必要です。
この段階で重要なのが、アウトプットの方法や習慣を仕組みに落とし込むことです。ルールを整えることで、継続の困難性や行動の属人化の壁を乗り越えやすくなります。
インナーマーケティングの具体的な施策

では、具体的にはどういった施策を行えば良いのでしょうか。ここでは、広報・PRにつながるインナーマーケティング活動を3つ紹介します。
①ブランド・方針の言語化と共有
まず重要なのは、社員にパーパスやビジョン、ブランドメッセージを言語化して共有することです。
さらに、その背景や意思決定のプロセスを踏まえ、「これから会社としてどんな人材を求めているのか」までを具体的に説明すると、社員は自分の行動に移しやすくなるでしょう。
理念共有だけで終わらせず、期待するスキルやアウトプット、学習テーマにまで落とし込み、それらが評価や報酬の設計と結びつくことで、社員は「理解した上で主体的に動く」状態になりやすくなります。
シェイプウィンでは、AIの活用が一般化されてきている現代において、社内で業務効率化を重要な方針として掲げ、自動化や仕組み化を積極的に進めています。その方針を社内に明確に発信することで、AI活用の勉強や業務改善への取り組みが広がり、社員が同じ方向を向いて自ら行動しやすい環境を生み出しています。
②評価制度を明確にする
インナーマーケティングを行動につなげるには、評価制度を曖昧にしないことが重要です。
方針やメッセージを伝えても、「何をすれば評価されるのか」が見えなければ、行動は定着しません。
評価制度は、会社が本当に重視している価値観を示すものです。
どんな成果やスキルが評価され、どのように報酬に反映されるのかを具体的に示すことで、社員は自分の努力の方向性を定めやすくなります。
たとえばシェイプウィンでは、IELTSで一定以上のスコアを取得すると、毎月の給与が上がる仕組みを取り入れています。これは、海外クライアントと直接交渉できる人材を求めているという会社の意思を、評価制度として明確に示すためです。
努力と報酬の関係が見える状態をつくることが、社員の納得感と主体性を高め、実際の行動へとつなげる鍵になります。
③社内向けコンテンツ設計
社内向けコンテンツは、「出すこと」自体が目的にならないことが重要です。
社内報やイントラネット、社内SNSは、情報共有ではなく、判断基準や価値観を揃えるためのツールとして活用しましょう。
コンテンツ設計においては、以下のような施策が有効です。
・社内報・イントラネット・社内SNSを活用する
・成功事例だけでなく、挑戦や試行錯誤の過程もあわせて共有する
・他社の成功事例・失敗事例を社内向けに編集して紹介する
具体的な事例が増えるほど、企業の方針への納得感が高まり、インナーマーケティングは推進しやすくなります。
社内報の作り方やネタに困っている方は、こちらの記事もご参照ください。
社内報ネタ40選!読まれる記事を作るポイントとは?
④社員参加型のコミュニケーション施策
理解を行動に変えるためには、社員自身が考え、言語化する場をつくることが欠かせません。
ワークショップやディスカッションを通じて、社員が自分の言葉でアウトプットすることで、「会社の方針」が「自分の考え」へと変わっていきます。
シェイプウィンでは、クライアントへの提案力を高めるため、社内でのナレッジシェアの取り組みを積極的に実施しています。たとえば、社員同士でお題を出し、30分という限られた時間でAIを活用しながら提案書を作成するワークショップなどです。
また、ここでの取り組みが評価や給与に反映されることを明確に示すことで、社員の参加意欲を高めています。
⑤広報・PR施策との連動
インナーマーケティングは、社内だけで完結させず、広報・PR施策と連動させることで効果が高まります。
社外に向けたプレスリリースなどの発信は、同時に社内に向けたメッセージにもなるからです。
また、社外からの評価や受賞は、社員にとって大きな自信につながります。
組織が評価される経験を積み重ねることで、エンゲージメントが高まり、結果的に社内広報・社内マーケティングの面でも良い影響が生まれます。
シェイプウィンでも、こうした受賞歴は積極的に社内外に発信しています。
TOKYOテレワークアワード推進賞を受賞
シェイプウィン、ホワイト企業アワード「柔軟な働き方部門」受賞
インナーマーケティングのKPI・効果測定例

インナーマーケティングは成果が見えにくい領域ですが、成果を測らないと改善できません。
効果測定において重要なのは、閲覧数や参加率などの定量指標のみで満足しないことです。広報・PRの目的に照らし、行動変化と事業成果につながる指標を設計しましょう。
定性指標
定性指標は、「腹落ちしているか」「行動に変化が出ているか」を確認するためのものです。
数値では測りにくい部分だからこそ、観察ポイントをあらかじめ決めておくことが重要になります。
主な定性指標の例
・社内アンケートによる理解度・共感度の変化
・ブランドや方針を説明する際の言葉の揃い方
・社員の発言内容や質問の質の変化
・現場対応や判断の一貫性
主観に寄らないよう、設問や観察項目を固定し、定点で比較できる形にしておくことがポイントです。
定量指標
定量指標は、「施策や仕組みが実際に回っているか」を確認するためのものです。
数値の増減そのものを目的にするのではなく、改善のヒントを得るための指標として捉えましょう。
主な定量指標の例
・社内施策やワークショップの参加率
・社内コンテンツの閲覧数・滞在時間・コメント数
・ワークショップや施策で生まれたアウトプット数
・取材協力や情報提供の件数
動きが鈍い指標は、「伝え方」「場の設計」「評価との連動」を見直すサインになります。
KGI
インナーマーケティングの最終的なゴールは、社員の行動変容が事業の成果につながることです。
KGIの例
・社員一人あたりの粗利・付加価値
・提案の質や案件化率の向上
・生産性や業務効率の改善
・採用の質や定着率の改善
・離職率の低下
途中指標で満足せず、「最終的に何を良くしたいのか」に必ずつなげることが、インナーマーケティングを成果につなげる設計のポイントです。
よくある失敗例

最後に、インナーマーケティングにおいて広報・PR担当者が陥りやすい4つのケースを把握しておきましょう。
多くの場合、失敗の原因は施策そのものではなく、業務・納得・対象設計とのズレにあります。
①施策が形骸化してしまう
スローガンや理念を掲げること自体が目的化すると、現場の行動は変わりません。
日々の業務と結びついていない理念や施策は、社内からは「また新しいことが増えた」というマイナスな受け取られ方をされがちです。
施策を掲げる際は必ず「この方針を定めたら現場はどう変わるのか」まで落とし込む必要があります。
②トップダウンで進めてしまう
経営の想いを強く打ち出しても、現場の文脈に翻訳されなければ納得は生まれません。
トップのメッセージと自身の仕事との関連が見えないまま進むと、社員の納得感が不足し、「やらされている感」が強まります。
部署や役割ごとに噛み砕いた説明と、社員同士の対話の機会が欠かせません。
③社員のフェーズを理解していない
たとえば、新入社員など認知・理解の段階にいる社員に、いきなり行動や発信を求めても施策は定着しません。
社内には理解度の異なる層が混在しているため、フェーズを無視した一律の施策は失敗しやすくなります。
④施策ごとのペルソナが定まっていない
全社員向けに広く施策を打ち出すほど、結果的に誰にも届かなくなるケースは少なくありません。
施策ごとに対象や状況、「その施策で何を変えたいのか」を明確にしてから施策を設計することが、インナーマーケティングを機能させる土台になります。
まとめ:インナーマーケティングは広報・PRの基盤

インナーマーケティングは、社内施策にとどまらず、広報・PR戦略全体を支える重要な基盤です。社員がブランドや方針を理解し、自分の言葉と行動で体現できる状態をつくることで、社外への発信力は大きく高まります。
一方で、言語化や評価制度、コンテンツ設計、KPI設計まで含めて取り組む必要があり、部分的な施策だけでは成果につながりにくいのも事実です。SNS運用やPR、SEOなどを切り離さず、全体を一つの戦略として設計する視点が求められます。
シェイプウィンでは、インナーマーケティングを起点に、広報・PR、SNS、デジタルマーケティングまでを一気通貫で支援しています。
社内外のコミュニケーションを本質的に強化したいと感じたときは、お気軽にご相談ください。
