採用活動において重要なのは、単に応募者数を増やすことではなく、自社が本当に求める人材を惹きつけることです。そのため、求人広告だけに頼るのではなく、自社の価値観やカルチャーを発信する「採用オウンドメディア」が注目されています。
しかし、発信内容を誤って自社に合わない人材が集まってしまったり、運用コストだけが膨らんだりしてしまうリスクもあります。
本記事では、採用オウンドメディアの定義や役割、採用サイトとの違い、メリット、制作ステップ、成功事例を具体的に解説し、人事・採用担当者の方が実践に移すためのポイントを整理します。
採用オウンドメディアとは?

採用オウンドメディアは、求人広告や採用サイトだけでは伝えきれない「企業の文化や人」を発信できる手法として注目されています。
まずは、採用オウンドメディアの定義と役割について詳しく見ていきましょう。
定義と役割をわかりやすく解説
「採用オウンドメディア」とは、自社が所有するメディア(ブログ、note、サイトなど)を活用し、採用に直結する情報を発信する仕組みです。
特徴は「今すぐ転職活動をしている層」だけでなく、「転職を漠然と考えている潜在層」にアプローチできる点にあります。
近年、求職者の情報収集は従来の「30代 転職」「営業職 求人」といった事柄ベースから、「在宅 ワークライフバランス 有給消化率」や「正当な評価 社風 ユニークな制度」といった価値観ベースへと変化しています。検索行動の複雑化に伴い、単なる募集要項では候補者の心を動かせなくなってきました。
採用オウンドメディアは、こうした変化に対応し、自社の働き方や文化、社員の声を継続的に伝えることで「この会社で働いてみたい」と思わせるきっかけを作ることができます。
企業ブランディングと採用広報を結びつけるハブとして、今や欠かせない存在になっているのです。
採用オウンドメディアと採用サイトの違い
採用サイトと採用オウンドメディアは混同されがちですが、役割は明確に異なります。
| 項目 | 採用オウンドメディア | 採用サイト |
|---|---|---|
| 主な目的 | 情報発信・企業ブランディング・企業理解の促進 | 募集情報の提示・応募導線の確保 |
| 対象 | 「いつか転職を考える」潜在層 | 「今すぐ応募したい」顕在層 |
| コンテンツ内容 | 社員インタビュー、企業文化、働き方、ビジョン | 募集要項、待遇、エントリー情報 |
| 強み | 中長期的に人材プールを形成できる | 即効性がある・応募数を稼げる |
| 弱み | 運用に時間とリソースが必要 | 掲載終了で効果が消える |
採用サイト
採用サイトは、求人票や募集要項、待遇など「今すぐ応募する人」に必要な情報を届ける場所です。
エントリーボタンや説明会予約ページへの導線が重視され、即効性のある応募獲得に直結します。
採用オウンドメディア=情報発信・ブランディング中心
一方、採用オウンドメディアは、応募検討前の段階にいる「転職潜在層」に向けたコンテンツ発信が中心です。
社員インタビュー、仕事のやりがい、企業文化、社会課題への取り組みなどを丁寧に伝えることで「この会社なら自分の価値観と合いそう」と思わせ、応募動機を醸成します。
両者は競合関係ではなく補完関係にあります。採用サイトは「応募の入り口」、採用オウンドメディアは「興味喚起と理解促進の場」として、両輪で運用することが理想です。
採用でオウンドメディアを活用するメリット

採用オウンドメディアを導入することで、人事・採用担当者はどのような成果を得られるのでしょうか。主なメリットを4つ紹介します。
①求人広告依存からの脱却
求人媒体への出稿は即効性がある一方、掲載が終われば効果も途切れてしまいます。
採用オウンドメディアは、自社の資産として蓄積され、記事が検索経由で継続的に読まれるため、中長期的に候補者を集められます。
②ミッション・ビジョンの浸透
求人票だけでは伝えきれない「なぜこの事業をやるのか」「どんな社会的価値を目指すのか」を発信することで、共感する人材を集めやすくなります。
そのため、採用時のミスマッチ防止にもつながります。
③会社のリアルな魅力を発信
社員インタビューや働き方紹介など、広告では伝えにくい「リアルな声」を届けられるのも大きな強みです。
候補者は自分のキャリアや価値観と照らし合わせやすくなり、エントリー意欲が高まります。
④会社の資産として蓄積される
オウンドメディアのコンテンツは、SNSやメールマーケティングなど他のチャネルにも二次利用できます。
長期的に採用広報の資産となり、継続的な採用力強化に貢献します。
採用オウンドメディアの制作ステップ

採用オウンドメディアを効果的に運営するためには、思いつきで記事を発信するのではなく、明確な戦略に基づいた制作ステップが欠かせません。
その具体的なプロセスを、順を追って解説します。
①コンセプト設計
まずは「どんな人材にどんなメッセージを届けたいか」を明確にします。
採用の課題を洗い出し、オウンドメディアの役割を定義することで、記事や企画の一貫性が保てます。
②ペルソナ・ターゲット設定
年齢・職種・志向性などを踏まえ、理想的な候補者像を具体的に設計します。
たとえば「スタートアップ志向の20代エンジニア」など、リアルな人物像を描くほどコンテンツ企画に落とし込みやすくなります。
ペルソナの設計方法は、以下の記事で詳しく解説しています。
広報PRにおける「ペルソナ」とは?設定のポイントや成功例を解説
③コンテンツ設計
社員インタビュー、社内カルチャー記事、制度紹介、イベントレポートなど、多角的に企画します。
SEOキーワードを取り入れることで検索流入も狙えます。
SEOキーワードの取り入れ方は、こちらの記事をご参照ください。
SEOキーワード選定の正しいやり方と10のステップ!AIの活用方法や無料ツールも紹介
④制作・運営体制の決定
記事のライティング・編集・デザインを誰が担うかを決めます。外部ライターやPR会社と連携することで、継続的かつ高品質な運営が可能になります。
オウンドメディア運用にかかる費用もしっかり把握しておきましょう。
オウンドメディアの費用 立ち上げから運用までのかかる費用を解説
⑤効果測定
PV数や応募数だけでなく、「記事を読んだ後の応募率」や「面接辞退率の改善」など、質的な指標も追うことで成果が見えやすくなります。
採用オウンドメディアを成功させるチェックリスト

採用オウンドメディア運用で継続的に効果を生むためには、運営の基盤を整え、チーム全体を巻き込みながら進めることが重要です。
ここでは、人事・広報担当者が実務に落とし込む際に押さえておきたいチェックポイントを整理しました。
目的・KPIの設定
単なる記事配信ではなく「何を達成したいのか」を指標化します。
たとえば「半年後に応募数を20%増やす」「エンジニア職からの応募比率を高める」といった具体的なKPIを置くことが必要です。
さらに、KPIを全社で共有することで、採用活動が経営戦略の一部として機能しやすくなります。
社員の巻き込み体制
成長中の社員やロールモデル人材を積極的に登場させると、候補者に強い共感を生みます。
現場を巻き込み、広報と採用が一体で取り組む姿勢が求められます。その過程で、社員自身のエンゲージメントや社内ブランディング向上にもつながる点が大きなメリットです。
継続発信の仕組み
月に1本など定期的に更新する仕組みを整えることで、候補者の期待感を維持できます。属人的にならないよう、編集カレンダーを設定するのも効果的です。
加えて、バックナンバーを資産として活用することで、発信に厚みが出て検索流入の安定化にも寄与します。
他チャネルとの連携
採用オウンドメディアの記事はSNSや採用サイトと組み合わせて拡散します。流入経路を増やし、候補者の接点を多角化させましょう。
記事の二次利用を前提に設計すれば、同じコンテンツで複数の効果を生み出せる点も魅力です。
他企業と連携する
他社の取り組みや業界イベントと絡めることで、記事が拡散されやすくなります。
たとえば、積水ハウスの育休プロジェクトのように社会的テーマに乗ることも一案です。
こうした共創的な発信は、単なる採用活動にとどまらず、企業の社会的評価向上にもつながります。
採用オウンドメディアの成功事例
ここでは、採用オウンドメディアの成功事例を2つ紹介します。自社に取り入れるためのヒントを探してみてください。
Sansan「mimi」

名刺管理サービスで知られるSansanは、社員インタビューを中心としたオウンドメディア「mimi」を運営しています。
社員のキャリアや働き方、組織文化をリアルに伝えることで、候補者に「自分が働くイメージ」を持たせやすくしています。特に、ただの広報記事ではなく「ストーリー」として読ませる構成が特徴で、カルチャーフィットした人材の獲得につながっています。
メルカリ「mercan」

メルカリは、“メルカリの「人」を伝える”をテーマとするオウンドメディア「メルカン」を展開しています。
記事は「会社・事業」「職種」などのカテゴリに加え、「私がここで働く理由」「エンジニアと立ち話」など多様なタグで整理され、働く人のリアルな姿を多角的に発信しています。
急成長の中で部門間の情報共有が難しかった同社において、メルカンは社内の連携不足を解消する役割も担いました。
結果として社内外の情報流通を促進し、社員によるリファラル採用も強化。現在では採用全体の半分以上がリファラルによるものとなり、オウンドメディアが採用基盤として機能しています。
さらに、デザインも洗練されており、記事の末尾やサイドに自然な形で採用サイトへのリンクを配置するなど、候補者をスムーズにエントリーへ導くUX設計となっています。
まとめ:採用オウンドメディアは企業の未来を支える基盤

採用オウンドメディアは、求人広告に依存しない持続的な採用力を育てるための有効な手段です。
単なる情報発信にとどまらず、企業文化や社員のリアルな声を資産として蓄積し、長期的な採用ブランディングにつなげることができます。
一方で、コンテンツ企画から体制づくり、効果測定に至るまでを自社だけで完結するのは容易ではありません。だからこそ、専門的な知見を持つ外部パートナーを戦略的に取り入れることが成果への近道となります。
シェイプウィンでは、採用広報・PR・SEOを含めた包括的なサポートを行い、企業ごとの課題に即した採用ブランディングを共に実現します。まずはお気軽に無料相談をご利用ください。