ソーシャルリスニングという言葉を耳にしたことはあっても、「効果測定のためのツール」といったイメージが先行し、実際にどのようにマーケティングやPR活動に役立てられるのかは意外と知られていません。
実際には、消費者のリアルな声を収集・分析することで、炎上リスクの早期察知や競合分析、さらには商品開発やブランド戦略にまで活用できる強力な手法です。
本記事では、ソーシャルリスニングの基本からメリット・デメリット、具体的な活用事例やツールまでを体系的に解説し、自社のマーケティング活動にどう組み込むべきかを考えるヒントを提供します。
ソーシャルリスニングとは?

ソーシャルリスニングとは、こうしたSNSやブログ、掲示板などに投稿された消費者の意見を収集・分析し、マーケティングやブランディングに役立てる手法です。
従来のアンケート調査やグループインタビューでは得られなかった率直でリアルな感情を把握できる点が最大の特長です。
近年は消費者行動におけるSNSの影響力が拡大し、マーケティング戦略上の重要度が一層高まっています。
また、SNSを中心に、オンライン上の消費者の声は日々膨大に発信されています。
ときには些細な投稿がまとめサイトやマスメディアに拡散し、企業にとって大きな影響を及ぼすこともあるので、SNSの動きを初期段階で察知して対応することが重要となるのです。
ソーシャルリスニングの具体的な内容
対象となるメディアは幅広く、以下のようなプラットフォームが分析の対象となります。
・X(旧Twitter):リアルタイム性が高く、炎上やトレンド把握に有効
・Instagram:ビジュアル訴求に強く、ブランドイメージや購買意欲の把握に活用
・Facebook:コミュニティ型の投稿から、年代層の高いユーザーの意見収集が可能
・LINE:クローズドなコミュニケーションの中での口コミを把握
・TikTok:短尺動画を通じた消費者の反応や流行の兆しを分析
・YouTube:レビュー動画やコメントから商品理解や評価を抽出
・ブログ:長文レビューから詳細なユーザー体験や意見を収集
・掲示板・レビューサイト:匿名性が高く、率直な不満や要望を把握しやすい
これらのプラットフォーム上で言及される商品やサービス、自社ブランドに関する投稿を収集・分析することで、消費者のポジティブ・ネガティブな感情の傾向や、話題の広がり方や影響度を把握できます。
こうした情報をマーケティング施策に反映させることで、表面的な数値では捉えきれない消費者インサイトを見極め、より精度の高い戦略を実行することが可能になります。
ソーシャルリスニングが注目された背景

背景にはSNS利用者数の増加と、その影響力の高まりがあります。
たとえばアジャイルメディア・ネットワークの調査によると、消費者の購買検討時において「たまたま検索で見かけたSNS投稿」が最も強く影響を与えているという結果も出ています。
つまり、広告や店頭ではなく、生活者同士のリアルな声が行動を左右しているのです。
こうした状況では、リアルタイムでのモニタリングと迅速な対応が欠かせません。
ソーシャルリスニングは、企業が消費者の声を敏感に察知し、戦略的に活かすための必須の手段となっているのです。
ソーシャルリスニングとSNSマーケティング・アンケート調査の違い
ソーシャルリスニングを理解するうえで、よく混同される「SNSマーケティング」や「アンケート調査」との違いを整理しておくことが重要です。
下の表では、それぞれの特徴と役割をまとめています。
| 項目 | ソーシャルリスニング | SNSマーケティング | アンケート調査 |
|---|---|---|---|
| 目的 | 消費者の声や反応を分析し、戦略に反映する | 情報を発信して認知拡大・ファン育成を行う | 設定した質問に対して定量的な回答を得る |
| 立場 | 「受け手」として世の中の声を拾う | 「発信者」としてメッセージを届ける | 「調査者」として回答を集める |
| 手法 | SNS上の投稿・口コミ・コメントを収集・分析 | 投稿・広告・キャンペーンを通じて発信 | 質問設計→回答収集→集計・分析 |
| 得られる情報 | 消費者のリアルで自発的な意見や感情 | 反応率、エンゲージメント、拡散状況など | 回答者の意識・意図に基づく意見 |
| メリット | 自然発生的な声を把握できる・トレンド把握が早い | ブランドの露出拡大・ファンとの関係構築 | 定量的で比較しやすいデータが得られる |
| デメリット | データが膨大で分析に時間がかかる | 消費者の本音が見えにくい | バイアスが入りやすく、設問設計に依存 |
| 活用例 | 新商品の評判分析・炎上リスク管理・トレンド分析 | SNSキャンペーン・広告・ブランディング施策 | 市場調査・顧客満足度調査・PR調査 |
ソーシャルリスニングとSNSマーケティングの違い
SNSマーケティングは、企業が発信者となり情報を届ける活動です。商品やサービスの認知拡大、ファンの育成、キャンペーン拡散などがその典型です。
一方、ソーシャルリスニングは逆に「受け手」として消費者の声を拾い上げ、戦略に反映させます。
両者を組み合わせることで、発信した情報がどのように受け止められているかを分析し、次の施策改善につなげることが可能です。
関連記事:プロに聞いたSNSマーケティング成功事例5選と3つの秘訣!どうやってトレンドをキャッチアップする?
ソーシャルリスニングとアンケート調査の違い
アンケート調査はあらかじめ設定された質問に対する回答を集めるため、設計の偏りや回答者の意図によるバイアスが避けられません。
これに対しソーシャルリスニングは、消費者が自発的に投稿した率直な声を分析するため、よりリアルな意見が得られる点で優れています。
もちろん両者を補完的に活用することで、数量を重視したデータと感情を重視したデータを組み合わせ、立体的なマーケティング分析が可能となります。
アンケート調査をPRに活かす手法は、以下の記事で詳しく解説しています。
調査PRとは?効果的な手順と注意点を解説
ソーシャルリスニングのメリットとデメリット

ソーシャルリスニングを導入する際には、その長所と短所を理解しておく必要があります。
ソーシャルリスニングのメリット
ソーシャルリスニングを導入することで、企業には次のような利点があります。
・リアルタイムで大量のデータを取得できる
・消費者の率直な声を把握できる
・世論やマスメディアの動向を予測でき、将来のリスクやチャンスを察知することができる
・マーケティング活動の効果検証や戦略立案の精度が向上する
ソーシャルリスニングのデメリット
一方で、次のような課題も存在します。
・ツール導入やデータ取得にコストがかかる
・膨大なデータを扱うためのスキルや体制が必要
・専門知識がなければ情報を活用しきれず、データの山になるリスクがある
・内製と外部委託のバランスをうまく見極める必要がある
ソーシャルリスニングの具体的な活用場面

ここでは、企業が実際にどのような場面でソーシャルリスニングを活用しているかを、代表的な4つのケースに分けて紹介します。
①ブランド評価の把握
SNS上で発信される商品評価や口コミは、ブランドイメージに直結します。
カスタマーサポートの一環として活用する企業も増えており、SNS上でのクレームや質問に対し、公式アカウントが即座に対応することで信頼関係を築いています。
こうしたリアルタイムなやり取りは、従来の電話やメール対応よりも速やかに消費者の不満を解消できます。
②炎上リスク検知・対策
炎上は企業の評判を一夜にして失墜させるリスクがあります。
ソーシャルリスニングによって、批判的な投稿や異常な拡散の兆候を早期に察知し、適切に対応することが可能です。
たとえば、消費者が「商品に異物が入っていた」とSNSに投稿し、それがまとめサイトやニュースに取り上げられることで一気に拡散する事例があります。
こうした場合、事実確認を行ったうえで迅速な公式声明を出し、顧客対応を徹底することが被害拡大を防ぐために不可欠です。
消費者の私的な不安やストレスが引き金となって企業が「はけ口」にされるケースもあり、この場合は背景を踏まえた冷静な広報対応が求められます。
危機管理広報についてはこちらの記事をご参照ください。
失敗しないための危機管理広報マスターガイド!危機管理の基本から応用までを解説
③競合分析
競合企業に対する消費者の反応を把握することも、ソーシャルリスニングの重要な活用シーンです。
競合の強みや弱みを消費者の声から抽出することで、自社の差別化戦略を考える材料になります。
④消費者インサイトの把握
消費者は購入理由を必ずしも言語化していません。表面的なデータでは捉えきれない「無意識の欲求」や「行動の奥にある心理」を把握するために、ソーシャルリスニングは極めて有効です。
たとえば、味の素冷凍食品は「フライパンに餃子の皮が張り付く」という1件の投稿をきっかけに、投稿者へお詫びを伝えると同時に、同様の声を持つ消費者から実際にフライパンを集めて検証を行いました。
結果として全国から約3,520個ものフライパンが集まり、3Dスキャンなどの技術を用いて焦げ付きの原因を徹底的に分析。その成果をもとに商品を改良し、「冷凍餃子フライパンチャレンジ」として話題を呼びながら、リニューアル商品の売上を大きく伸ばすことに成功しました。
このように、ユーザーの“不”を無視せず、企画・開発段階で声を反映させることが、ブランド信頼と商品力を同時に高める鍵となっているのです。
参照:https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/86739c3934ee717ffd2b99715d7ca5e5998e381d
ソーシャルリスニングの4つのステップ

効果的に導入するためには、明確なプロセスを踏む必要があります。
以下の4つのステップを意識することで、単なるデータ収集に終わらず、戦略に直結する成果を得やすくなるでしょう。
①目的設定
まずはソーシャルリスニングを行う目的を明確にすることが重要です。
目的が曖昧なままだと、収集したデータをどう活用するか判断できず、分析の精度が落ちてしまいます。
代表的な目的としては以下のようなものがあります。
・ブランドマネジメント:自社ブランドの評価やイメージを把握する
・顧客インサイトの発見:消費者の潜在的なニーズや不満を抽出する
・トレンド把握:業界や市場で注目されている話題を捉える
・リスク対策:炎上やネガティブ情報を早期に察知し対応する
・キャンペーン効果測定:施策や広告がどのように受け止められているかを確認する
②対象ワード設定
自社ブランド名、商品名、業界キーワード、競合ブランドなど、収集する対象ワードを設定します。
ここで設定するワードの幅や粒度が成果を左右するため、仮説を持って複数パターンを用意することが重要です。
③データ収集
専用ツールやAPIを用いて対象データを収集します。
プラットフォームごとに収集できる範囲が異なるため注意が必要です。
定点観測だけでなく、期間を区切った収集や特定イベント時の集中調査など、目的に応じた柔軟な収集方法を選ぶことが求められます。
④分析・活用
収集したデータを数値化・分類し、マーケティング施策や商品改善に反映させます。
分析結果をレポートにまとめるだけでなく、社内の意思決定や現場のアクションに落とし込む仕組みを整えることが成功のカギとなります。
ソーシャルリスニングの分析手法

分析の切り口はいくつかに分類でき、それぞれが異なる視点から消費者理解を深める手助けをしてくれます。
数値分析
投稿数やリーチ数、ポジティブ・ネガティブ比率などを把握し、全体像を可視化します。
数値として把握することで、客観的にどの程度話題になっているかを判断でき、施策の成果測定や比較分析に活用できます。
トレンド・キーワード調査
特定キーワードの出現頻度をモニタリングすることで、業界動向や流行を把握します。
新しいニーズや潜在的な関心事をいち早く掴むことができ、商品開発やコンテンツ企画のヒントにつながります。
アカウント分析
自社アカウントに反応した消費者の属性を把握し、ターゲティング精度を高めます。
年齢層や地域、性別などの情報を組み合わせることで、どの層に強く支持されているかを把握でき、今後の施策の方向性を定めやすくなります。
セグメント分析
投稿内容を種類ごとに分類し、購入者と潜在顧客の特徴を比較することで戦略立案に活かします。
たとえば「実際に購入した人」と「興味があるだけの人」の違いを整理すれば、購買に至る要因を見極めやすくなります。
おすすめのソーシャルリスニングツール
市場には多様なツールが存在します。それぞれの特長を理解し、自社に合うものを選ぶことが重要です。ここでは代表的なツールと選択肢を紹介します。
Social Insight(株式会社ユーザーローカル)
SNS業務を効率化する分析・運用ツール。ソーシャルリスニングに加えて、SNSキャンペーンや投稿の運用までカバーできるのが強みです。
Boom Research(株式会社トライバルメディアハウス)
国内最大級の口コミデータベースを持つツール。過去数年分の膨大なデータを自由に分析でき、長期的なトレンド把握に適しています。
BuzzSpreader Powered by クチコミ@係長(株式会社ホットリンク)
国内最大級のデータ量を保有し、Twitterやブログ、掲示板の分析に強みを持ちます。炎上リスクの早期察知にも有効です。
Google Trends
検索トレンドを無料で把握できるツール。SNS以外の検索行動から生活者の関心を読み解けるため、手軽に導入できます。
Meltwater
グローバル市場に強い包括的な分析ツール。海外を含めた広範囲なモニタリングやレポート機能に優れており、グローバル展開を行う企業に適しています。
SIEMPLE
日本国内の企業向けにソーシャルリスニングサービスを提供。SNS分析に加え、PR施策やレポート作成まで外注型で支援してくれるため、専任チームを持たない企業でも取り入れやすいのが特長です。
まとめ:企業の成長を支える最適なツール・パートナー選びを

ソーシャルリスニングは、消費者の無意識の声を拾い上げ、商品開発や市場開拓に活かす成長戦略の起点となります。
しかし、データ収集や分析に偏りがあると、誤った意思決定につながる危険性もあります。
ツール導入や分析には時間と専門性が求められるため、すべてを内製化するのは難しい企業も多いでしょう。
だからこそ、外部パートナーの知見を取り入れることが有効です。
シェイプウィンではSNSやPRを含めた包括的なサポートを提供しており、自社に合った形でのソーシャルリスニングを実現します。無料相談も承っていますので、まずはお気軽にご相談ください。
