ニッチ分野でシェアを持っている製造業が事業成長するために必要なことは何だと思いますか?
いまや先端半導体分野では欠かせない存在となったEUV露光装置のASMLですが、実は現在のようなポジションを築く以前、2000年まではニコンやキヤノンの日本勢を追うメーカーでした。
その転換点となったのは、技術開発だけでなく、「ASMLが止まれば世界のIT進化が止まる」という強力なメッセージを発信し、競合を取り入れるマーケティング戦略によりPRしたことで今日のNo.1となったのです。
そしてこれは、ASMLだけの話ではありません。
日本市場でも存在感を高めているBtoB製造業は増えています、AGCは「ガラスの会社」から「ガラス技術を応用した化学・電子・ライフサイエンスのパートナー」への転換、ムラタセイサク君で有名になった村田製作所、1本からオーダーバネを作る東海バネ工業など、尖ったコミュニケーション戦略を行うことでブランド認知と市場で優位な立場を確立しています。
一方で、技術力や品質では決して劣っていないにもかかわらずこうした動きに踏み出せていない企業は、気づかないうちに比較の土俵から外れ始めているのが現状で、「ニッチ製造業の勝ち方が変わった」という現代の事実に、どれだけ早く向き合えるかが分かれ目になっています。
そこで本記事では、製造業を取り巻く社会の変化を踏まえながら、ニッチな技術を持つ製造業がなぜ今「伝え方」を見直す必要があるのか、PRの視点から解説します。
なぜ、これまでニッチ製造業はPRをしてこなかったのか
製造業において、PRはこれまで必ずしも優先度の高い取り組みではありませんでした。なぜかというと、技術力や品質が評価され、特定の取引先との関係が安定していれば、事業は十分に成立していたからです。
また、積極的な発信を控えることは当時のニッチ製造業にとって一つの合理的な戦略でした。技術が広く知られなければ競合が参入しにくく、限られた取引先との関係を維持でき事業を安定させることができたためです。
そのため、当時はPRの必要性を強く感じる場面が少なかった企業が大半だったと言えます。
変わり始めた社会構造とサプライチェーン

しかしこうした前提が社会構造や産業構造の変化によって、大きく変わり始めています。
サプライチェーンの多様化が当たり前になった
近年、製造業を取り巻く環境変化により、サプライチェーンの考え方が変わりつつあります。技術革新のスピードが上がり、新しいイノベーションが次々と生まれる中で、従来の取引関係や業界構造だけでは対応しきれなくなってきたためです。
その結果、特定の企業との関係を前提にするのではなく、状況や目的に応じて調達先やパートナーを選び直す姿勢が一般化しています。
特に航空宇宙、AI・データ基盤、半導体、クリーンエネルギー、ロボティクスといった新たな分野では、従来の業界内での知名度や取引実績がそのまま通用するとは限りません。これまで接点のなかった技術や企業が、同じ土俵で比較される場面が増えています。
こうした変化によって、製造業の立場も変わりました。かつては特定の業界や用途で確固たるポジションを築いていればその関係が継続することが前提とされていましたが、「選ばれ続けること」が求められる立場になっているのです。
知られていない企業は、比較の土俵にすら立てない
こうした環境の中で、現在の市場では、技術力や性能が評価される以前に「その企業や技術が知られているかどうか」が判断軸になります。
新たな製品や事業の検討にあたり、すべての企業や技術を一から調べることは現実的ではありません。おそらく多くの場合、過去に接点があった企業や、事前に認知されている技術を起点に候補が絞られるでしょう。そのため、技術的に対応可能であっても、存在が認識されていなければ、そもそも検討の初期段階に入ることができません。
常に比較される立場になった以上、いくら良い技術があってもそれを社会が理解するための文脈がなければ、存在しないのと同じ扱いになってしまいます。
これまで通りでは技術力が伝わらない
これまでは、判断する側も専門知識を持っており用途や導入目的があらかじめ明確だったので、製品やプロジェクトの性能・機能をまとめたスペックシートを提示すれば十分に技術の価値が伝わっていました。
しかし現在は、イノベーションによって新しい分野や異なる業界の人たちが検討の初期段階から関わるようになり、「その技術をどう使えばいいのか」というところから説明が求められる場面が増えています。
そのため、仕様を説明する前に、技術の使われ方や得られる価値、つまりアプリケーションの文脈から伝えていく必要があります。こうした形で顧客の理解を段階的に深めていくことが、ニッチなBtoB技術を持つ企業にとって重要となるプロダクトアウト型のアプローチです。
よくある失敗として、マーケットインを前提に戦略を考えようとパターンも多いですが、ニッチで高度な技術を持つ企業において、この考え方は必ずしも機能しません。
製造業の技術開発には、10年、20年という長い時間がかかります。今見えている市場ニーズに合わせて開発を始めたとしても、実際に製品が完成する頃には、市場環境や用途そのものが変わっているケースも少なくありません。そのため、短期的なニーズを起点に技術を作り替えるマーケットインは、現実的な戦略になりにくいのです。
ニッチな技術で競争力を保つためには、価格を下げて市場に合わせにいくのではなく、価値を理解してもらった上で高付加価値として選ばれる状態をつくることが重要になります。そのためには、なぜその技術が必要なのか、なぜその価格なのかを納得してもらう「顧客教育」のプロダクトアウトがキーになるのです。
そして、これを実現できる唯一の施策がPRです。PRと言っても、単にメディア露出を増やすことを指しているわけではありません。技術の価値や社会での位置づけを整理し、検討の初期段階で「理解される入口」をつくるための取り組みです。
ニッチ製造業においては、その技術が生み出す新たな課題解決や世界観を伝えるブランディングやコミュニケーション戦略を行わないと新規顧客創出が困難になるだけでなく、価格競争に巻き込まれてしまいます。
マス×オウンドメディアPR〜有名ニッチ企業が勝てる戦略〜

ここまで見てきたように、現在の製造業では、技術や品質そのもの以上に、シーズ・ソリューションとして広くターゲット顧客に認知され、その製品技術を使った最終製品の付加価値がどの程度向上するのかを教育していく必要があります。
しかし、専門性の高い技術ほど、その価値を言葉にすること自体が難しく、さらにそれを第三者に正しく理解してもらうことも容易ではありません。
こうした課題に対して有効なのが、マスPRとオウンドメディアPRを組み合わせたPRです。大手から中堅B2B製造業ではこの戦略を活用して新たな市場開拓やブランドを確立しています(村田製作所、オムロン、トラスコ中山、マクニカなど多数)。
新規サプライヤーを認知するきっかけを見ても、意思決定の入口が大きく変わっていることがわかります。
Paperless PartsとResearchscapeが実施した共同調査によると、新規サプライヤーを認知するきっかけは、Googleなどのインターネット検索が64%、既存ネットワークからの紹介が63%、業界誌・トレードパブリケーションが31%と、オンライン上の情報や第三者の文脈が検討の起点になっています。(※1)
つまり、展示会やポータルサイトにたどり着く前の段階で、すでに比較や取捨選択が始まっているということです。こうしたなかで、マスとオウンドを組み合わせたPRが非常に必要になっています。

マスPRとオウンドメディアPRの役割
マスPRとは、新聞・テレビ・ラジオ・雑誌、Webニュースなどのマスメディアを通じて、情報を届けるPR手法です。プレスリリースやメディアピッチなどの手法により、第三者であるメディアに記事として取り上げられ、社会からの高い信頼を得られる点が特徴です。
これまで取り上げられていた業界紙だけでなく、顧客のターゲット業界のメディアやWebニュース・テレビなど一般メディアを通じて情報を発信することで、製品情報にとどまらない社会実装における文脈を伝えることができ、自社のポジションを確立することができます。一方で、マスPRでは、限られた情報量の中で、技術の価値を十分な深さで伝えることには限界があります。そこで必要になるのがオウンドメディアです。
オウンドメディアPRは、自社のWebサイト上で記事やコンテンツを発信し、マスメディアからの情報だけでは伝わりきらない技術の深い価値を“自社の言葉”で丁寧に伝えるためのWebメディアです。
技術の開発背景や、採用事例、将来ビジョンなど社会への影響や存在価値を自社の言葉として発信することで、深い理解を促し、自社のファンにしていく役割を担います。
特にニッチ技術・製造業の場合は、マスメディアの話題性で入口を広げ、オウンドメディアの専門性、継続的で理解を深める掛け算で“市場が企業を理解していくプロセス”を作ることが重要です。
生成AIへの影響
さらに近年では、情報収集の手段が検索エンジンだけでなく、生成AIへと広がっています。
ユーザーが調べたいテーマについて検索エンジンで検索するのではなく、生成AIに質問し、その回答を起点に企業や技術を知るという行動が、徐々に一般化し始めています。
このとき、生成AIが参照する情報源として使われやすいのが、マスメディアの記事や、企業が継続的に発信しているオウンドメディアのコンテンツです。断片的な広告情報ではなく、背景や文脈が整理された記事、独自見解がある記事ほど、AIの回答の中で紹介されやすくなる傾向があります。
実際にシェイプウィンでも、ここ近年は「生成AIの回答をきっかけに、自社のPRに適した企業として知った」という問い合わせが急増しています。
このように、マスメディアとオウンドメディアでの発信は、生成AI時代においても重要な要素になっているのです。
製造業のPR成功事例
最後に、マスメディアとオウンドメディアでの発信を実際に取り入れることで成功した、製造業の事例を紹介します。
三菱重工

三菱重工業では、製造業や重工業の未来をテーマにしたオウンドメディア「SPECTRA」を立ち上げ、業界動向や技術の背景を継続的に発信しています。
実際に、こうしたオウンドメディアを起点とした取り組みは、海外の専門メディアからも注目されています。
アジア太平洋地域のマーケティング・広告業界を扱う Campaign Asia では、三菱重工業が独自のオンラインメディア「SPECTRA」を立ち上げ、直接的な企業PRではなく、重工業や産業の未来をテーマにした情報発信を行っている点が世界に向けたブランディング構築につながっていると評価しています。
Campaign 「Mitsubishi Heavy Industries takes soft approach for global growth」
https://www.campaignasia.com/article/mitsubishi-heavy-industries-takes-soft-approach-for-global-growth/428965
東京エレクトロン

東京エレクトロンでは、自社の技術やものづくりの背景を伝えるために、オウンドメディア「Telescope Magazine」を運営しています。
「Telescope Magazine」は、専門性の高い技術を、社外の人にも理解できる文脈で伝えることを目的としたメディアで、スペック情報だけでは伝わりにくい価値や背景を言語化し、時間をかけて企業理解を深めてもらうための受け皿として機能しています。
日本ガイシ

日本ガイシでは、自社の技術を社会課題の解決につなげて説明するために、「解決テクノロジー」というオウンドメディアを公開しています。
このコンテンツでは、社会が直面している課題と、日本ガイシの技術がどのようにその課題を解決しているのかをテーマ別に整理しています。たとえば、「解決テクノロジー」のコーナーでは、社会課題と技術を結びつける視点が一貫しており、読み手が自社の専門分野外でも理解しやすい形で情報が発信されています。
まとめ:BtoBニッチ製造業に求められるPRの考え方

本記事で解説してきたように、ニッチ製造業では、サプライチェーンの多様化や検討プロセスの変化によって、「知られているかどうか」「検討の初期段階で理解されているか」が、選ばれるか否かを左右するようになっています。
こうした環境では、技術の使われ方や価値を言葉で伝えることが前提になります。そのための手法として紹介したのが、マスPRとオウンドメディアPRを組み合わせた考え方です。
マスPRで技術を社会や産業の文脈に位置づけ、オウンドメディアPRで理解を深める。この二つを一つの流れとして設計することで、認知と理解を継続的に積み上げていくことができます。
シェイプウィンでは、ニッチな技術や専門性の高い製造業が市場の中で正しく理解され、そして選ばれるためのPR支援を行っています。
サイト上では公開していない、貴社の技術をどのようにPRストーリーとして設計していくか、その具体的なステップや事例をまとめた資料を個別にご案内していますので、ご関心がある方は以下のお問い合わせフォームよりご連絡ください。
