【書評】『マーケティングのすゝめ〜21世紀のマーケティングとイノベーション』(フィリップ・コトラー/高岡浩三:中公新書ラクレ)

著者:梅下 武彦

世界地図と人

本書は、あのフィリップ・コトラー教授とネスレ日本CEO高岡浩三氏による共著。しかも、この10月の新刊で書店の平積みコーナーで見つけました。新書ですし、なんといってもランチの定食より安くて懐にも優しいですね(^_^)。

激変し進化し続けるマーケティングを旺盛な意志で追求しているコトラー教授、コーヒー市場の転換点にマーケティングで成長軌道をひた走るネスレ日本のCEO。この二人による本です。

その二人が21世紀の今日、どういう視点や発想を持たなければならないのか、さらにはそれらをどのように実践するべきなのかを語り尽くすマーケティング実務家向け本です。

本書は業界を問わず、マーケティングの初心者はこれからどのような視点を持つべきか教えてくれます。ベテランにはマーケティング戦略の示唆、経営者層やマネジメント層には市場(消費者)に対する態度や姿勢を伝授。そして気鋭のイノベーティブなマーケッターには自信を与えてくれるでしょう。私自身、日頃からマーケティングについて、感じたり考えていたりしたことに確信を得ることができました。

大御所による最新の知見、日本の誰もが知っている企業の製品やサービスでどのようにマーケティングに取り組んでいるのか、ケーススタディーでわかりやすく語られています。

単なる発想の転換だけの「すゝめ」ではない

人差し指と物体

本の帯には二人が映っていて、大御所のコトラー教授を迎えての対談本の印象ですが二人による分担執筆です。

本書は、プロローグを高岡浩三氏、エピローグをコトラー教授が書き、1章はその二人の対談、2章はコトラー教授で1.0〜4.0までの変遷を語り、3章〜6章までを高岡氏が執筆しています。

本書の核となるのは、2、3、5の3つの章です。

2章では、マーケティングがどのように変化してきたか歴史的に振り返り、その定義が時代(市場=消費者)によってどのように変遷してきたのかを語ります。

御年80歳を超えてもそこは探究心や研究熱心なマーケティング業界の大御所、その彼が生涯をかけて追求してきたマーケティングの歴史的な概略を把握しながら俯瞰します。

内容的には、『コトラーのマーケティング3.0〜ソーシャル・メディア時代の新法則』(朝日新聞出版)概略です。

より深く理解したい人は、上記の本を読むことをおすすめします。

しかし、本章ではさらにそこからマーケティング4.0へと進み、その代表的な事例としてネスレ日本を取り上げています(他の代表的企業としてはレゴやハーレー・ダビッドソンなど)。

これからは、あらゆる企業が、消費者とともに製品・サービスを共創し、その欲求や願いを叶える製品やサービスを提供していく(自己実現)ことで、いまや企業の一部門に留まるものではなく、社会全体をより良くするために存在するもの。それを実現する新しい方法がマーケティングの役割であると。

3章は、マーケティング担当者だけではなく、あらゆる業務担当者や部門の人たちに大いなる気づきと示唆があるでしょう。一言で言えば、マーケティングは「企業体質をより強固なものとしていく経営ノウハウそのもの」であるという言葉に集約されています。

そうした視点から読めば、この章こそ本書全体を通じた核であり、ネスレ日本が取り組む様々なエピソードから「20世紀マーケティングだけでは解決できなくなった事実」について、「営業マンから採用システムにいたるまでマーケティング3.0的発想を徹底されている」ことがどのようなものなのかについて理解できます。

私も「ネスカフェ アンバサダー」くらいしか知りませんでしたが、こうした企業姿勢は、これを受ける形での5章(「問題解決は「問題発見力」が出発点」)を続けて読むと、本書の提示する「マーケティングのすゝめ」(企業体質をより強固なものとしていく経営ノウハウ)なのだと実感します。

その5章ですが、「問題発見力」とは、見えざるものを見ることです。つまり、日常で何気なく見て当たり前と思っているモノやコト、それらについて気づきや発見(洞察からなぜと問うこと)は、とくにビジョナリーには顕著な特徴です。
これについては、ブログ『【書評】「見えざるものを見る力』〜ビジョナリーとは「洞察力』として書いたので、ご興味がある方にはあわせてご笑覧願えれば嬉しく思います。

かのヒューレット・パッカード創業者デービッド・パッカードは、「マーケティングは、マーケティング部門だけに任せるにはあまりに重要すぎる」という名言を残していますが、マーケティングそしてイノベーションなど、その真価を発揮させるためには、一部門の人たちに任せるのでは達成できず、全社的にここまで徹底し浸透させるべき必要性に、「ハッ」と気づかされ驚愕するあるいは目からウロコが落ちる人たちもいることでしょう。

コトラー・ビジネス・プログラム(KBP)とは

タブレットとノートとコーヒー

この着想は、「ワールドマーケティング・サミット」開催の最中、高岡氏が関係者との話で、コトラー教授の名を冠したビジネススクールを創設してはと語ったことから始まったようです。

これは最新のマーケティングを学び理解を深め、普及・発展させることが目的です。
しかも、学校などへ通って学ぶのではなく、インターネットを活用したオンライン・ビジネスプログラムとして安価に提供しようというビジネスモデルです。

コースは3つ計画されています。

1つめはマーケティング初学者向けの入門コース、2つめはマーケティング担当者以外向けのコース、3つめはエグゼクティブ向けの高度に専門性の高いコースです。
想定金額は5万円前後で、1コース習得には2ヶ月を要するものだとのこと。さらに、個人向けと企業研修向けの2つのコースまでも用意されています。

さて、私が本書で一番印象に残ったのは「働くということは、答えのない問題に向き合い続けることだ」という高岡氏の言葉です。

それに倣っていえば、「マーケティングというのは、答えのない問題に向き合い続けることだ」ということでもあるというのが、私自身の実感です。

One More Thing…。

本書はネスレ日本にとってだけではなく、これから日本でも提供予定のKBPにとっても、大いに一役買っている「PR本」となっていることをお伝えしておきましょう。

下記に、実務家マーケッターが書いて示唆に富む本を3冊ご紹介します。残念ながら、(1)と(2)は一般書店では入手ができませんが、アマゾンやブックオフなどで手軽に入手可能ですので、見つけたら一読をお勧めします。

実務家マーケッターが書いて示唆に富む本を3冊

(1)『コカ・コーラが挑戦するエコシステム・マーケティング』(ファーストプレス:江端浩人/本荘修二)

この本は、2009年当時、日本コカ・コーラのインタラクティブマーケティング統括部長だった江端浩人氏と友人の本荘修二氏との共著です。

刊行されたときに購入し、読み進むほどに「うん、うん」と感じながら、自分の考えていることが間違っていないという確信を得ることができ、さらには示唆までいただいたのです。
私の提唱しているCommunication Ecosystemという着想は、この書からインスパイアーされたものです。

この本は、オウンドメディアとして先駆的な「コカ・コーラパーク」の事例を軸に、今日では当たり前となっている発想や視点について、エコシステムによるマーケティングの必要性とその戦略を自覚的に語っている本です。

(2)『世界最強のCMOのマーケティング実学教室〜最前線を勝ち抜いてきた知恵とスキル』(ダイヤモンド社:ブラッドフォード・C・カーク)

本書は、グローバル企業でCMOを歴任してきた著者の本。
そうしたキャリアから、各企業での実務経験から得られた知見を10のレッスンとして、特にB to Cのマーケティング主導型企業を念頭に語っています。

ビジネス現場で鍛えられたマーケッターのエッセンス(レッスン)が詰まっています。PRについては「レッスン5」です。原著が2003年とやや古く、ソーシャルメディアなどについては触れていませんがそれでも不足はありません。

また、「レッスン9」はグローバルマーケティングについて書いていますが、コアコンピタンシー視点からノンコア事業からの撤退など、競争優位性の源泉にフォーカスする重要性が語られているあたりは実務家らしいです。

(3)『マーケティング・センスの磨き方』(マイナビ新書:黒澤晃)

こちらは15年刊で、書店でも手軽に入手可能。
本書は、大手広告代理店で30数年マーケティングとクリエイティブの実務経験から得られた知見から書かれています。

私はタイトルに魅せられて購入しました。私と同様、マーケティング動乱期にコミュニケーションの質量ともに激変を経験した著者です。マーケティングとクリエイティブを架橋することを目的に書かれています。

それにしても、(1)と(2)のような本こそ、文庫化され気軽に安く入手でき、広く読まれるべきビジネス書だと感じている次第です。