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【書評】「普通」の人のためのSNSの教科書(著者:徳力基彦/朝日新聞出版)

ブログ、フェイスブック、ツイッターなどのSNS、多様なソーシャルメディアに関する現在の数ある本でおすすめの1冊を聞かれたなら、私であれば本書を挙げるでしょう。

ブログやSNSをこれからはじめようとしている人にはよき「教科書」、すでに利用はしている人にとってはきっとよき「参考書」となるでしょう。

今日、SNSはユーザーの情報発信・受信、メッセージのやりとりチャットなど、しかも老若男女を問わず日常的なコミュニケーション手段として、多くの人たちが利用しています。電話以上に、頻繁に利用する不可欠なツールです。

【書評】「普通」の人のためのSNSの教科書(著者:徳力基彦/朝日新聞出版)

大型書店に出向くと、そうしたSNSの利用方法に関するさまざまな本が並んでいます。アカウント開設からその機能や操作方法などの解説書、集客力やPV・フォロワーを獲得するティップス、クリックされやすい見出しの付け方からバズらせるテーマの選び方、アフィリエイトで稼ぐテクニックなど、実にさまざまな類書が数え切れないほどあふれ、短期間で新陳代謝を繰り返しています。

本書の特長は、上記のようなハウツー本ではなく、普通のビジネスパーソン向けでどちらかというと個人としてそれらを利用するさいの心構え、知っておくべき基本的な原則について書かれていることです。

なお著者は、ブログ、フェイスブック、ツイッターなどをふくめ、これらソーシャルメディアを説明の便宜上からすべてSNSとして扱っています。

著者は、以下のように語ります。

“自分のもっている情報を淡々と発信し、必要としている人だけに見つけてもらい、コミュニケーションがとれればいいのです。”

本書はプロローグ、Chapter0〜4、エピローグまで220ページという新書ほどの分量なので、多忙なビジネスパーソンにはそれもありがたいでしょう。

SNSを続ける「3つのメリット」

タブレットでオンラインサービスを使う女性

プロローグでは、普通のビジネスパーソンこそ実名でしかも淡々とSNSを継続するべき理由、その意義と価値を述べています。mixiやツイッターも、初期ユーザー(イノベーターやアーリーアダプターなど)は確か実名が多かったように私は記憶しているのですが、ユーザーが増えるのに比例して匿名が増加していきます。

Chapter0では、そうした著書がSNSを通じてどのように知られるようになったのか、さまざまなご縁やキャリアとの関係などについて語られています。

かつて、ネット vs リアルという言葉がさかんに喧伝されましたが、今日ではその言葉自体がナンセンスなほど、ネット(オンライン)とリアルの融解は進行してしまいました。

普通の人がSNS利用で情報発信するのはコミュニケーションのためであって、文筆家のそれではありません。したがって、文章力(巧拙)、テーマ性などを追求する必要はないのです。仕事に良い影響や効果が発揮できる範囲内で、円滑なコミュニケーションをすればいいだけです。

著者はSNSの活用について、下記の「3つのメリット」を挙げています。

(1)「プルのコミュニケーション」ができる
(2)「蓄積効果」がある
(3)「思考訓練」になる

「プルのコミュニケーション」とは、ネット上に情報をアップしておけば、その情報を探している人たちが勝手に見つけてくれることです。しかも極端にいえば、世界中の人が見出してくれるのです。

私の経験を例にあげれば、カナダ在住の一田(作家)さん、アメリカ在住の菅谷(ジャーナリスト)さんのお二方が私の書評エッセイをツイッターで発見し、その後の一時帰国のさいに直接お目にかかってご縁を得たような出来事です。

「蓄積効果」は、日々のなかでの気づきや発見、学びや触発されたことなどを備忘録として継続的に残していくことで、それによる自分自信の知見の蓄積効果があることです。

私もときどきなにかの情報を検索していて、ふいに自分が書いた文章に出くわすことがあります。そうしたなかには、書いた本人が忘れていたような有意義な内容もあります。

つまり、自分の知見をいつでもどこでも検索で引き出すことができるようになります。

「思考訓練」は、アウトプット訓練と言い換えることもできます。文章として著すという行為が、情報や知識など頭に眠ったまま未分化で散らかっている知見の整理や体系化に資するのです。

とくに読書中に自分の頭の奥底に眠ったままになっていた知見が、ふいに眼前に現れることがあります。ネット上に残しておくことで、いつでもどこでもそうした情報にアクセスすることが可能となります。

SNSの特長と注意点

ソーシャルメディアとモバイルアプリ

次にブログ、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムなど、それぞれの特長が語られています。

フェイスブックとツイッターは拡散性には優れていますが、前者はつながり(友人や知人)の範囲、後者は文字数(140字)に制限があります。ブログは拡散力に弱点がある一方で、蓄積力と検索に強みがあります。ただ、それが効果を発揮するまでは時間を要します。

私がブログ開設のころ、連日アクセス数がゼロという日々が随分と続きましたが、いまではほとんどが検索エンジン経由での蓄積された記事へのアクセスです。したがって、それらをうまく組み合わせて活用することをすすめています。

もしも、私にソーシャルメディアのどれかひとつだけしか使うことが許されないとしたならば、多様に進展し続けるソーシャルメディアではいまどき古いツールだといわれようとも迷わずブログを選択します。

本書では、企業内・組織内でSNSを利用する普通のビジネスパーソンを想定していますので、就業規則の確認、上司の承諾をえる方法、企業情報、製品やサービスをふくめた社内事情などについての注意点についても丁寧に述べています。

また、いきなり積極的になんでもかんでも情報を発信するのではなく、まずはソーシャルリスニング(傾聴)やそれに対するフィードバックからはじめるのがよいでしょう。

アウトプット・ファーストーー自分用のメモという視点

メモをする女性

著者は、ビジネスパーソンのSNS活用においてはとくに自分自身のためのメモ(備忘録やノート)として残すという考え方の重要性について述べています。著者は、メモ魔なのです。

それが、フィードバック(ブログのトラックバック、SNSのコメントやリツイートなど)を通じ、結果として仕事にもよい影響として作用すると。

そのさい、下記の「3つのメモスタイル」をすすめています。

(1)「イベント」のメモ
(2)「ニュース」のメモ
(3)「本」のメモ

イベントメモは、いわゆるレポートです。とくにクローズドなイベントでは、その内容(資料などをふくむ)について、ネット上で公開しても差しつかえないものか否か確認を忘れないことです。

また、昨今ではPCでメモを取ることがなかば当たり前になっていますが、周辺でPCのキーボードを打つ音が気になったという経験をしている人も多いでしょう。イベントによっては、PCでメモを取ることを禁止しています。

そうしたこともあり、パッド(タブレット端末)で静音キーボードを利用する人が増えています。

この件については、以前にも「デジタルマナー」について考えるという記事を書いたことがあるほどです。最近では筆記具で紙に手書きするのに慣れていない人もいますが、個人的には周辺の人たちへの配慮のためにも手書きをおすすめします。

ニュースメモは、毎日発信されているニュースについて感じたり考えたりしたことに、コメントを添えて紹介するだけなのでネタに困ることはありません

ニュースは、ストレートニュースから社説やコラムなどさまざまな種類があります。また、企業の発表するプレスリリースも重要なネタとなります。その他にも、メールマガジンなども情報ソースとしては最適です。

本のメモは、読書で気づきやヒントになった部分に付箋を貼る、あるいは自分の仕事に引き寄せて考えたことをメモとして残しておく感覚でアウトプットすることです。

とにかく、書評を書こうなどとは気負わないことです。例えば、本のなかでもっとも心に残った言葉を引用しながら、それについて短評や一言コメントをそえるだけでも十分なのです。

私の場合も、上記の3つがやはり「三本柱」です。

(1)と(3)は、ブログ活用です。私の場合、どうしても文章が長くなるので、ブログが最適なのです。その後、フェイスブック、ツイッター、リンクトインを利用して拡散を行います。

(2)は、上記すべてのSNSで活用できます。私は、ツイッターの場合は一言コメント、フェイスブックやリンクトインの場合はニュースの重要な箇所を多少長くても引用し、そのままかあるいはコメントを添えて更新します。

ほかにも発信する留意点として、常にアウトプットを意識しながら自分なりのペースをつくる。人前や対面で話すには憚られるようなことは書かないなど、10のポイントを提案しています。

また本書では、上記の3つの軸について、著者の実際のそれぞれのメモの事例が掲載されているので大いに参考となるでしょう。

アウトプットとそれを「ズラすコツ」

アイディアの図

さて、自分用のメモに慣れてきたら、一歩進んでそれらのメモを有効なコミュニケーション手段(期待値を上げる)として活用する創意工夫(著者のいう「ズラすコツ」)を教えてくれます。

「ズラすコツ」ためにも10のポイントをあげています。それらのなかで、ここでは私が重視する下記の4つのポイントについて述べます。

「流行りものには飛びついておく」(「ズラすコツ3」)

最新情報についてはだれでもが関心が高い題材なので、多くのコミュニケーションを誘発しやすくより活性化する効果があります。

「未来予測」(「ズラすコツ4」)

著者が呼んでいるもので、私のいう「洞察力」と同じです。予測というと大げさですが、テーマについて自分なりの洞察力をはかる基準(試す)くらいに考えればよいのです。

「ニッチに絞って「深さ」で勝負する」(「ズラすコツ5」)

仕事上か個人的であるのかは別にして、だれでもが語りたがる流行りものとは異なり、一種オタク的な精神で追求するテーマの継続的な情報発信は、コンテンツの独自性を発揮します。

「量より質、数より熱量を重視する」(「ズラすコツ10」)

PVやフォロワー数など、数字の誘惑というのはだれにでもあります。企業運営の公式アカウントでれば、それは重要な指標でしょう。しかし、個人アカウントであれば関係ありません。私はブログのアクセス数などをまったく気にしなくなりましたし、フェイスブックの友だちやツイッターのフォロワー数も気にせず自然増に任せていますが、いたずらに増えることがないように留意しています。

ほかにも「ズラすコツ1:意中の人や企業に探される準備をする」、「ズラすコツ2:運営元に選ばれる話題や切り口で書く」なども、ヒントになるでしょう。

このChapter3の最後には、SNSの使い方の事例としてさまざまな業界や多様な職種の人たちの23人の体験談、それも実名で紹介されています。実際に実名でSNS活用したことで、ビジネスに思いがけない影響や効果をどのようにもたらしてくれたのかもわかり、それらもヒントになるでしょう。

リターンとリスクという問題

炎上のイメージ

実名でSNSを利用することは、サイバー公衆空間に自分をさらすことになります。社会にはさまざまな人たちがいますので、なにげないことが非難や批判を誘発してトラブルに巻き込まれないという保証もありませんし、可能性も否定できません。

最後のChapterでは、そうしたリスクについて述べています。炎上には、自分の投稿(発言)に問題がある場合、そうでない場合の2つがあります。

自分の発言自体に過失がなくても、世の中にはどうしてこういうコメントを残すのかと理解に苦しむことがあります。他者の発言に何か一言いいたがる(いわゆる言いがかりや因縁をつける)人というのはいるものなのです。

そうした「意図せざる状況や事態」というのは、いつでも突然やってきます

そうしたとき、それに感情的に対応することで炎上を誘発してしまいます。炎上というのは、第三者による非難や批判それも罵詈雑言による感情的で攻撃的な言動です。

炎上は、最初は小さくともネット上ではすぐに広まります。それは、サイバー公衆空間上で投稿コンテンツが可視化されていること、さらにその人の「正義感」や義憤に同調し追随する人たちをも巻き込むことになります。

加えて、テレビメディアなどがそれを報道することで、さらに炎上が拡散や加速します。

私たちが日常の社会生活のなかで他者とコミュニケーションーー友人や知人たちとの会話、イベントなどの懇親会で大勢の人たちと会話などーーをとるとき、言葉使い(話し方)や仕草などの振る舞いには自然と配慮がはたらきます。

ネット上でも、そうした普段の対人関係と同じような心構えや姿勢で臨めばよいだけなのです。

また、企業アカウントの場合、企業の顔や代表という自覚がつねに求められます。

ソーシャルメディアの企業アカウントでは、いわゆる「中の人」の人柄が感じられる文章やコンテンツが重要だといわれていますが、それだけに担当者の属人性(情報力、文章力などをふくめたコミュニケーション能力)に大きく左右されます。

担当者が代わることで、それまでのSNSが築いてきたその人柄が失われてしまうリスクもあります。だからといって、プレスリリースを投稿しているだけでは共感を得るのは難しく、いつまでたってもフォロワー増にはつながりません。

そのほかにも、アルバイトの短慮で軽率な投稿によるいわゆる「バイトテロ」が頻発したことからも、ソーシャルメディアの運営にはつねにリスクと表裏一体なのです。

欧米では、そうしたリスクにも対応するために専門のソーシャルメディアやコミュニティ運営の責任者を多く登用しています。それに加え、企業や組織にかかわるあらゆるリスクを横断的な担当する責任者として、CRO(Chief Risk Officer=最高リスク責任者)というポジションも設けています。

もしも、そうしたリスクはなんとしても避けたいと判断しているのであれば、SNSには最初から手を出さないことです。

ところで、私がブログ、フェイスブック、ツイッターなどの利用を開始してから、ちょうど干支がひとまわり(12年)しました。2008年は私にとってのソーシャルメディア元年です(当時は、CGM/UGCなどと呼ばれていました)。

私は、それ以前のmixi利用時のときからすべて実名アカウントでした。

この間、マーケティングコミュニケーションは劇的に変化しました。

なかでも、SNS利用の日常化はPRに対する考え方や手法が大きく進展し、その役割も増大してきました

私はこの12年間で、これまでに炎上などトラブルに見舞われることは、幸いなことにまったくありませんでした。むしろ、そうしたツールを利用してきたことで、嬉しい出来事や貴重な体験、幸運なご縁や出会いをいくつもいただきました

もちろん、これからも平穏であることを願っていますが、それでもトラブルやアクシデントに巻き込まれないという保証もありません。それはネット上だけにかぎらず、リアルな社会生活でも同じことです。

本書は、ビジネスパーソンでSNSを利用する人に向けた著書です。しかし、それ以外の「普通の人たち」にもヒントや気づき、示唆などを得るだろうというのが私の率直な読後の感想です。

(参考サイト)

徳力基彦(著者のブログ)

SNSは“実名”で! ビジネスパーソンが仕事やキャリアアップにつなげる具体的な方法

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梅下 武彦
梅下 武彦
コミュニケーションアーキテクト(Marketing Special Agent)兼ブロガー。マーケティングコミュニケーション領域のアドバイザーとして活動をする一方、主にスタートアップ支援を行いつつSocialmediactivisとして活動中。広告代理店の“傭兵マーケッター”として、さまざまなマーケティングコミュニケーション業務を手がける。21世紀、検索エンジン、電子書籍、3D仮想世界など、ベンチャーやスタートアップのマーケティング責任者を歴任。特に、BtoCビジネスの企画業務全般(事業開発、マーケティング、広告・宣伝、広報、プロモーション等)に携わる。この間、02年ブログ、004年のSNS、05年のWeb2.0、06年の3D仮想空間など、ネットビジネス大きな変化の中で、常にさまざまなベンチャー企業のマーケティングコミュニケーションに携わってきた。