「フィランソロキャピタリズム」ーー21世紀的な社会貢献または企業形態について考える

Date: 2018.10.02
Category: 広報/PR全般
Written by: 梅下 武彦
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ビジネスパーソン、それも経営戦略やマーケティングコミュニケーション部門ーーたとえば経営企画、CC(コーポレートコミュニケーション)やPRの各部門などーーにたずさわる人であれば、今後はきっと頻繁に耳にするするであろう「フィランソロキャピタリズム」という考え方を知っておく必要があるでしょう。

この言葉を初めて耳にする人も多いでしょうが、これは21世紀的な社会貢献あるいは企業のあり方の主流になるかもしれません。

ここ数年、企業のコンプライアンス(法令遵守)、アカウンタビリティー(説明責任)、レピュテーションマネジメント(評判管理)など、市民社会における企業の一員としての自覚を求めるCSR(企業の社会的責任)が強調されています。

今回、この新しい「フィランソロキャピタリズム」について、みなさんと一緒に考えることができればと思います。

フィランソロピーのはじまり

 

フィランソロフィーは、ビジネスパーソンにはなじみの言葉です。かつては慈善活動という日本語訳が当てられていたのですが、それだとチャリティ的な意味合いとなるので、現在では社会貢献活動というほうが一般的です。

この言葉をメディアで多く見かけるようになったのは、1990年代後半から2000年代になってからです。1980年代のバブル華やかなころ、メセナ(芸術・文化支援活動)ということが盛んに喧伝されました。今日ではそれを耳にすることもなく、代わってこのフィランソロピーが大流行です。

こうした社会的な背景を敏感に感じ取ったコトラー教授も、2000年代半ば以降ソーシャル・マーケティングに関する著書『社会的責任のマーケティングーー「事業の成功と「CSR」を両立する』(ナンシー・リーとの共著:2007年東洋経済新報社刊」)などが増えていきます。それが、コーズ・リレイテッド・マーケティング(Cause Related Marketing)という考え方です。

これは、企業が社会貢献を名目(目的)に特定の非営利組織に協力したり、その特定企業の商品を購入したりすることでさまざまな社会貢献(環境保護など)に結びつくと訴えるマーケティングコミュニケーション手法です。たとえば、売上げの一部が協力している非営利組織に寄付するという形式をとるなど、消費者参加型の社会活動であることが特徴でたんなる慈善活動と違い、顧客満足度も追求しながら企業(ブランド)のイメージアップや収益拡大することが最終的な目的です。

20世紀に発展をもたらした資本主義社会とそれを支えてきた従来の企業形態(コーポレーション)に対し、21世紀に入るとそのあり方に疑問をもつ人たちが増えてきました。

ジャック・アタリは『21世紀の歴史ーー未来から見た人類の歴史』(2006年:作品社刊)、ヘンリー・ミンツバーグの『私たちはどこまで資本主義に従うのかーー市場経済には「第3の柱」が必要である』(2015年:ダイヤモンド社刊)など、世界の知性が20世紀的な経済と社会の病への処方箋的著書を著したことはそうした危機意識のあらわれです。

社会福祉専門の学者である大杉由香はその論文『日本におけるフィランソロピー〜米国を中心とした国際的視点、歴史的視点、福祉の視点から見えてきた特長と問題』のなかで、フィランソロピーについて以下のように述べています。

“米国でフィランソロピーが20世紀初頭以降に興隆するのも、格差拡大が起きても小さな政府がほとんど関与しなかったため、ボランタリーな形で所得再分配をしなければ、機会均等・実力主義といった米国人を束ねている社会的前提が崩壊しかねなかったからで、ここからは市場原理主義・自由主義経済を機能させるための道具としてフィランソロピーが台頭してきたことが窺われる。”

ほかにも、ノースカロライナ大学の大西たまきの日本語による論文『フィランソロピー概念の考察ーー西欧におけるフィランソロピー研究のシステマティック・レビューと日本のフィランソロピー研究の発展にむけて』などもあり、このテーマにとくに関心のある方にはそれらを参照にすることをお薦めします。

 

「フィランソロキャピタリズム」はなにか?

 

この言葉はキャピタリズム(資本主義)とフィランソロピー(社会貢献)との造語です。

私がこの「フィランソロキャピタリズム」という言葉を知ったのは、本ブログの書評でも取り上げた宮地ゆう著『シリコンバレーで起きている本当のこと』(2016年:朝日出版刊)を読んだときでした。

その発端は私にはわかりませんが、同書ではフェイスブックCEOのザッカーバーグが2015年に次世代のためにと、450億ドル(5兆5000億円:当時の時価総額)という巨額の寄付をすると公表したことにあります。公表直後の好意的な反応は、後に批判へと変わったことが述べられています。

批判の理由は、2つあります。1つ目は、寄付する団体のあり方(LLC)。LLCであれば、ロビー活動ができるうえに財団のような堅苦しい管理(義務)から自由だからです。2つめには、これは寄付という名を借りた「投資」だということ。NPOや財団ではなくLLCという形態であることから、これまでの社会貢献活動とは異なり、社会の課題に対して優先順位、投資先やその金額、さらには使い方にまでコミットする姿勢のあらわれだと指摘されたのです。

つまり、社会貢献の名を隠れ蓑として、自分たちが展開するビジネス強化の目的が見え隠れすると批判されたのです。それこそが「フィランソロキャピタリズム」といわれるゆえんです。

このザッカーバーグのやり方には、あのピケティ教授も批判者の一人です。BBCのインタビューに次のように答えています。

“社会貢献活動は、税金を支払ったうえで行うならかまわない。しかし、例えばフェイスブックがろくに税金も払わず、代わりに自分たちでもっといい医療システムや教育システムを構築するのだというのなら、これは民主主義の終わりだ”

また、タックスヘイブンやIT企業の税金問題を研究しているカリフォルニア大学バークレー校のズックマン助教授も、ザッカーバーグのような手法は19世紀の英国ビクトリア朝時代への逆行だと以下のように述べています。

“当時は税金もあまりなく、富める人たちは貧しい人に施しとしてお金をあげていた。しかし、現代では、税金を払い、それをリソースとして貯め、どう使うかを民主的な方法で決めるというやり方のはずだ。フェイスブックが言うように、本当に平等な社会を作ろうというのなら、まずはちゃんと税金を払うところから始めるのが筋だろう”

シリコンバレーにあるIT企業の税金逃れは、同地域の財政逼迫の原因とされています。その一方で自分たちに利得のあるような社会貢献活動に寄付(投資)するのは、巧妙で好都合な新しいビジネスモデルだということです。

 

同書の中で、こうしたシリコンバレー流のやり方についてある米個人ジャーナリストはインタビューに答え、ウォール街とシリコンバレーで、信じられないほど儲けている人たちは「強欲さ」という点では同類だ。前者はそれを隠しもしないが、後者は世界をよりよくするなど美辞麗句を並べているが、租税回避や莫大な資産で社会貢献するといいながら、頭では狡猾にひたすら儲ける算段をしているだけだ、と辛辣に語っているほどです。

要するに、社会問題解決や社会貢献活動も市場原理で取り組み、自社の競争力や優位性確保のためだけに利用しているということなのです。

 

LLC、LLP、PBCーー新たな企業形態

社会貢献活動を行う場合、通常はファウンデーション(財団)を設立するのが一般的です。先述のザッカーバーグは、そうではなくLLCで設立しました。

LLC(Limited Liability Company=合同会社)による企業形態は、米国では1977年に法制化され、日本でも2006年の会社法改正によって認められた新しい企業形態です。国内でもアップルジャパン、アマゾンジャパン、グーグル、シスコなどもLLCです。その特徴は、経営に関する自由度が高く、決算報告の必要がないことが挙げられています。

LLP(Limited Liability Partnership=有限責任事業組合)は、1991年に法制化されました。日本でも2005年から設立ができるようになりました。この設立には2名以上が必要で、法人格はありません。

PBC(Public Benefit Corporation)は、一般的には「B-Corp」などと呼ばれています。つまり、社会の公益や公共の利益のための組織(企業)ということです。いわゆる社会企業などは、これに相当します。

こうした20世紀的企業であるコーポレーション(株式会社)とは異なる新しい形態による組織(企業など)は、「プロフィットよりベネフィット」という考え方で共通しています。ここ数年来、シェアリングエコノミーだけではなく“Conscious Capitalism”あるいは“Sustainable Capitalism”という言葉を目にした人もきっと多いことでしょう。

社会の進化に対応し、こうした新しい組織(企業)形態が今後も誕生することでしょう。

さて、法人格という言葉は人に人格があるように、企業の法律上の人格のことです。人も信用や評判が重要ですが、ビジネスの世界においても同様です。レピュテーションマネジメントの教科書ともいわれ、フィリップ・コトラー教授が序文を寄せているダニエル・ディアマイアー著『「評判」はマネジメントせよーー企業の浮沈を左右するレピュテーション戦略』(2011年刊:阪急コミュニケーションズ)など、ソーシャルメディア時代の今日では企業が評判をマネジメントすることは、米国社会では常識ともなっているほどです。

ところで、トリプルメディア論において、ソーシャルメディアを英語で「earned media」というのはご存じでしょう。earnは「金を稼ぐあるいは儲ける」というのが一般的に知られている訳ですが、この場合は「評判を博する(得る)」ということです。だから、ソーシャルメディアとは、「良い評判(信用)を得るためのメディア」の意味だと理解すべきなのです。

だれもが、20世紀的な経済システム=資本主義が行き詰まっていることは理解しています。

最近では、残念ながらめったに目や耳にすることもなくなった「ノブレス・オブリージュ」ですが、今日ほど真にこの言葉と考え方(精神)が求められている時代はないでしょう。1990年代の熱狂(米ソ冷戦の終結、インターネットの一般利用、EUの誕生など)から醒めてみれば、貧富の差の拡大、世界的なテロの続発、ナショナリズムの台頭など世界は紛争、混迷だけが残されたような情勢です。

ところで、2017年、49歳の若さで亡くなったイギリスの批評家マーク・フィッシャーの主著『資本主義のリアリズム』(原著2009年、邦訳2018年:堀之内出版刊)の中で、フレデリック・ジェイムソンとスラヴォイ・ジジェクの言葉として引用している「資本主義の終わりより、世界の終わりを想像する方がたやすい」というのは、まさに歴史に残る至言だと思います。

今のところ、オルタナティブな選択肢は理念的にも現実的に提示されていません。つまり、現在の資本主義経済(社会)を少しでもよりよくしていく以外、私たちにほかの選択肢が用意されてはないのです(アタリやミンツバーグも同じ問題意識です)。

資本主義経済(企業)というのは、自己保存のためならどのようにも変わりうるし、それこそがこの経済システムの本質でもあります。主義にこだわって自壊した社会主義とは異なり、グローバリゼーションが行きついた果てに「変態した資本主義経済(企業)」として現出してくるのではないか、と私個人は思っています。

ただし、それがどのようなものになるのか、残念ながら私の乏しい知見ではここで述べることは叶いません。

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