「言葉」の落とし穴ーーイノベーションについて思うこと(前編)

Date: 2018.03.15
Category: 広報/PR全般
Written by: 梅下 武彦
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イノベーション

日ごろ何気なく使っていても、その真の意味を問われて一瞬どのように答えようかと戸惑うような言葉というものが、おそらく誰にでもあるでしょう。そうした言葉についてあらためて調べたり考えたりすると、思い違いや勘違いをしていたことを発見あるいは本来の意味やその本質について気づかされることがあります。

以前、「自己PR」という誤解と矛盾に満ちた言葉への違和感について記事として書きましたし、一時期のビジネスモデル特許への誤解についてもすでに言及しました。
ほかにも例えば、リストラなどもそうした語の典型例でしょう。リストラ(リストラクチャリング)とは、本来は「事業再構築」というのがその本質です。つまり、事業再編(統廃合)を含めた企業組織の抜本的な見直し、経営戦略の転換や経営の効率化・合理化や生産性の向上を図るための考え方です。
しかしながら、日本では人員削減・賃金カット・肩たたき(退職勧奨)や解雇など、雇う側にとって都合のよい代名詞として流通し、本来の意味とその果たすべき目的を損ねてしまっています。

イノベーションもそうした言葉の一つで、しかも最上位にランクされているでしょう。今日のあらゆるメディアで目にし、業界を問わずもっとも頻繁に口にされ、日々の業務でも耳にしない日はないでしょう。
この言葉がビジネスにおいて最重要な課題となって久しいわけですが、産業界や業種を問わず今日では誰もがまるで呪文や祈りの言葉のように繰り返しながら、目的にかなった成果をあげるのが難しいテーマです。

2004年、ハーバード・ビジネス・スクールのヘンリー・チェスブロウ教授の『OPEN INNOVATION——ハーバード流イノベーション戦略のすべて』(産能出版部)が発売され、以降も続々と類書が刊行されたこともあり、オープン・イノベーションという考え方が広く知られるようになりました。
そうした背景もあり、国内の大手企業でも新規事業あるいはCVC部門を積極的に設立し、ベンチャー(スタートアップ)との協業に熱心です。
ここ数年来、ベンチャー系の小規模な集まりにさえ大手企業のそうした担当者の姿を見かけることが多くなりましたし、これら企業主催による各種イベント(コンペなど)も盛んに開催されています。
この10年ほどで、イノベーションという言葉の環境もずいぶんと変化しました。

そこで、いまさらながらで浅学非才は重々承知のうえなのですが、これまでに経験してきたこと、すぐれたビジネス書などから得てきた知識や情報などもふまえ、イノベーションについて私が考えていることについて述べます。
ただ、これから私が書こうとしていることは、私が知らないだけで誰かがすでに著書にしたり、どこかで語られていることかもしれないということは、念のためにご承知くださるようにお願いをいたします
本記事を読んで、「なるほど」、「そうか」、「やはり」など、なにがしかの気づきやヒントあるいは確認としてお役に立てれば嬉しく思います。

イノベーションーーその言葉の本義

ノートに書かれたイノベーション

この言葉はラテン語に由来し、この言葉自体の用例は1440年から存在するそうです。「イノベーション」について、ウィキペディアには、以下のように書かれています。

「イノベーション(英: innovation)とは、物事の「新結合」「新機軸」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」(を創造する行為)のこと。一般には新しい技術の発明を指すと誤解されているが、それだけでなく新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革を意味する。つまり、それまでのモノ・仕組みなどに対して全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出して社会的に大きな変化を起こすことを指す。」

また、今日的なイノベーションという意味では、経済学者のシュンペーターが1911年にはじめて「経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合すること」と定義して5つのタイプに分類し、その実行者のことを「企業家(entrepreneur)」と呼びました。

したがって、本来は企業活動だけではなく社会全体に関わることすべてについて適用されるべきことであり、必ずしも技術的なことだけを指し示すものではないということです。
いまでは時代の要請もあり、イノベーションについてのさまざまな著書も刊行されていますし、イノベーション=技術革新という固定観念に囚われている人はむしろ少ないでしょう。とくにデジタルネイティブといわれる若い世代のほど、従来からのそうした固定観念を持っていないのではないでしょうか。

しかし、それでも技術革新がともなわなければイノベーションではないという人たちーー製造業やICTビジネスに携わるエンジニアーーもいます。
それはある側面では正しくもあり、私自身は誤った考え方だとは思いませんが、それだけがイノベーションのすべてではないということも厳然たる事実なのです。

誤解しないでいただきたいのは、私はこれがいまさら“誤訳”だなどと顔でありきたりなことを言いたいのではありません。技術革新と訳したことで、イノベーションの範囲を狭めたり誤解を生じてきたりしたことはいなめないということを語っているにすぎません。
しかし今日では、イノベーションが技術革新だけを意味していないことは、現役のビジネスパーソンであればすでにみなさんも知っていることでしょう。

日本においてのイノベーション

ビルと新幹線

イノベーションを「技術革新」と訳して紹介したのは、経済企画庁(当時)が1956年に公表した『昭和31年度経済白書〜日本経済の成長と近代化〜』、「日本経済の現段階:技術革新と世界景気」の項目のなかだった、ということは現在では常識となっています。

第二次世界大戦終了後の10年、世界は米国やイギリスなどを中心とした西側諸国とソ連を枢軸とする東側諸国の社会主義との間が鉄のカーテンで仕切られ、西側諸国は米国主導による工業化が急速に進展しつつありました。
日本は敗戦後10年のめざましい復興から「日本の経済構造を世界の技術革命の波に遅れないように改造してゆくことである」というのが国の方針でした。

一刻も早く西欧諸国に追いつき、工業化をさらに加速させて発展するためには“イノベーションという技術革新”が不可欠だと考え、以後も日本では長らく技術的な発明や改良がイノベーションすることだと思ってきました。
西欧からの技術(工業製品など)を輸入し、それらを創意工夫によって機能追加や強化をすることで、日本製品は高品質なものとして世界中の消費者から信頼と支持を得るようになったのです。

さらに、私たちがイノベーション=技術革新と考えても仕方がない歴史的な大きな要因があります。産業革命です。
それにより発明された数々の技術が、以降の社会経済の発展をうながし人々の生活を豊かにしてきました。
日本は明治維新の富国強兵、第二次世界大戦敗戦後は復興から経済成長まで、常に欧米の最新技術を輸入し、改良や改善を加えてさらにすぐれた製品をつくり出し世界へ輸出してきたという歴史があります。

つまり、むしろ日本においてはイノベーション=技術革新という考え方が“有用”であり、それにより日本は「20世紀の奇蹟」とまで称されるほどの経済発展を遂げ、アジアでは唯一の主要先進諸国(G7)の仲間入りまで果たしたという事実です。
21世紀の今日、しかし、そうした多大なる成功をもたらしてきた考え方と実績は、もはや通用しないことを否応なしに突きつけられています。

欧米では、シュンペーター、ドラッカーといった賢者を筆頭に、さまざまな経営学者たちがイノベーションについて研究し著書を著してきたこともあり、日本に比べれば相対的には誤解は少ないと感じますが、それでもまったくないとは断言できないでしょう。

私が考えるイノベーションにおける2つの側面

過去と未来

イノベーションの2つの側面といえば、現在では『イノベーションのジレンマ』のクレイトン・クリステンセン教授が真っ先に思い浮かぶでしょう。イノベーションの2つの側面、それは「破壊的イノベーション」と「持続的イノベーション」について語りました。

しかし、これから私が述べるイノベーションにおける2つの側面は、クリステンセン教授の考える2つの側面とは違います。
私が考えるイノベーションにおける2つの側面とは、技術そのものの発明や製品化=「テクノロジーイノベーション」と顧客や市場創出による事業化=「ビジネスイノベーション」という視点です。

たとえば、農業におけるイノベーションについて考えてみましょう。今日の農業は、もっともイノベーションが起きにくい領域です。この分野でなにかテクノロジーイノベーションがもたらされる可能性は高くありません。

かりに誰かがこれまでの農業分野で画期的な発明をして特許まで取得したとしましょう。その発明それ自体はイノベーションです。それを製品化し発売もします。しかし、利用者はほんの一握りだけの人たちだけで、ほとんどの人たちには知られていない製品のままです。

この製品を誰か別の人が見いだし、ちょっと工夫して農業だけにこだわらずに別の分野でも利用できるようにし、人々に支持されて多くの顧客を獲得します。これもイノベーションなのです。

このように既成技術や製品に創意工夫を加えて転用あるいは応用し、ドラッカーがいう「顧客の創造」をすることができたなら、それはビジネス・イノベーションなのです。
そして、この考え方やビジネス手法が今日では主流となっているのです。

(後編へ続く)

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