人事として社員のエンゲージメントを高めたいが、何から始めればいいかわからない。そんな課題を感じていませんか?
企業理念やMVVを掲げてはいるけれど、社内に浸透が進まないケースは少なくありません。そこで注目されているのが、社員を「社内の顧客」と捉え、行動変容を促す「社内マーケティング(インナーマーケティング/インターナルマーケティング)」です。
本記事では、人事担当者が主導して取り組める社内マーケティングの基本や、社内広報との違い、具体的な施策について、成功事例を交えてお届けします。
社内マーケティングとは?

社内マーケティングとは、企業の目標や価値観を社員に浸透させ、エンゲージメントを高めるための社内向け施策を指します。
明確な定義は存在しないものの、広報とマーケティングの要素を併せ持つ社内コミュニケーション戦略として注目されています。
広報は「認知」を広げることを目指しますが、マーケティングは「行動を促す」ことが目的です。
まずは、社内広報と社内マーケティングの違いから見ていきましょう。
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社内マーケティングと社内広報の違い
社内マーケティングと社内広報は、目的やアプローチ、効果の出方が異なります。
項目 | 社内広報(Internal Communication) | 社内マーケティング(Internal Marketing) |
---|---|---|
目的 | 企業理念・ビジョン・戦略の浸透 企業文化の醸成 組織の一体感形成 | ブランドロイヤリティの向上 商品・サービス理解の促進 従業員のエンゲージメント向上 |
アプローチ | 情報伝達・共有を中心とした広報活動 | 社員を顧客と捉えたマーケティング的施策 |
活動内容 | 社内報、イントラネット、経営層との対話、社内SNS、メールなど | 新商品・サービス情報の発信、キャンペーン、インセンティブ、表彰制度、アンケートなど |
特徴 | 一方向的だけでなく双方向のコミュニケーションを重視 | マーケティング的視点で社員のモチベーションや行動を促進 |
連携効果 | 企業理念を浸透させることでマーケティング施策の基盤を整える | モチベーション向上により、広報活動への参加意欲や自発的発信を促す |
広報が「伝える」役割を重視する一方で、マーケティングはターゲットに「動いてもらう」ことがゴールです。
両者の連携によって、社内のエネルギーを外部への発信力に変えることができます。
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社内マーケティングの目的

社内マーケティングの根底にある共通の目的は、「社員のエンゲージメントを高めること」です。加えて、企業理念の浸透やブランド理解の促進、組織文化の醸成など、複数の目的が互いに関連しながら機能しています。
ここでは、社内マーケティングが果たす4つの代表的な役割を整理します。
①従業員のモチベーション・エンゲージメント向上
社員が自社の理念や事業に共感し、主体的に関わろうとする状態が、エンゲージメントの高い状態です。
社内マーケティングを通じて会社の存在意義を伝えることで、目先の業務だけでなく、会社の未来に対しても意欲的に向き合う社員が増えます。
たとえば「自社のミッションに誇りを持つ社員の割合が増える」「自発的に社外へ情報を発信する社員が出てくる」といった変化が期待できます。
②組織文化・ MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の浸透
理念の言語化は多くの企業で行われていますが、社内に浸透しているか否かは別問題です。
社内マーケティングの視点を取り入れることで、MVVを単なるスローガンではなく、日々の行動や判断基準として定着させることが可能です。
具体的な施策としては、MVVをテーマにした社内イベント、表彰制度、コンテンツ連載などが効果的です。
③ブランド・サービスへの理解促進
サービスを誰よりも理解し、誇りを持って語れるのは社員自身であるべきです。
新商品やキャンペーンの情報を社内向けに戦略的に届けることで、顧客に対しても自信を持って説明できるようになります。
社内の商品理解度が高い企業では、営業やカスタマーサポートの質も高くなり、顧客満足度の向上にもつながります。
④内部情報の共有と活用
部署をまたいだ情報共有や連携がうまくいかないという悩みは、非常に多くの組織で生じています。社内マーケティングは、こうした部門間の壁や情報のブラックボックス化の解消にも貢献します。
たとえば、プロジェクトごとの成功事例を共有するメルマガ、他部署を紹介する連載コンテンツ、異部署混合のワークショップなどは、組織の一体感を生む起点となるでしょう。
社内マーケティングの施策
社内マーケティングの施策は、必ずしも大がかりなものである必要はありません。
以下に挙げるような取り組みは、少人数の人事・広報体制でも実行可能なものばかりです。
勉強会やセミナー・社内イベントの開催

社員が自社の商品や業界知識を深められる場は、エンゲージメント向上に直結します。特に新卒や中途採用者にとっては、社内文化へのキャッチアップにも効果的です。
外部講師によるセミナーだけでなく、現場社員によるナレッジシェアや、開発チームによる技術勉強会なども良い取り組みです。
社内メルマガの発信

定期的な情報発信は、社内への信頼感醸成にもつながります。社内メルマガは、トップメッセージ、社内トピック、部署紹介、成功事例、インタビューなどを通じて、一方通行ではない双方向のコミュニケーションを育てるツールです。
配信後にリアクションを募集したり、コメントを紹介したりすることで、社員の参加意識も高まります。
社内報の作成

社内報は、社内に深い情報を届ける上で必須のツールです。紙・PDF・Webなど形式は問いませんが、「読む意義」を持たせた企画設計が重要となります。
社員の声や、数字の裏側にあるエピソードなど、社内のストーリーを丁寧に伝えることで、共感と信頼が育ちます。
どんな切り口で社内のストーリーを伝えればいいかという質問をよくいただきます。社内報のネタ作りに困っている方は以下の記事を参考にしてください。
関連記事:社内報ネタ40選!読まれる記事を作るポイントとは?
部署横断のプロジェクト・ワークショップの実施

部署を越えた対話や協働の場を定期的に設けることは、組織の活性化に効果的です。
たとえば、全社横断で「働きがい向上」や「次年度のMVV活用戦略」をテーマにしたワークショップを行うと、日々の業務に対する意識が変わっていきます。
社員発案のプロジェクト型イベントも、自走型の社内文化醸成に役立ちます。
キャンペーン情報の先行配信・限定体験会

新商品やサービスが世に出る前に、社員に先行体験してもらう施策は、理解促進とモチベーション向上の両方に効果的です。
体験者の声を社内コンテンツとして紹介したり、SNSなどで外部に拡散してもらう設計をすれば、社外への波及効果も期待できます。
社内マーケティングの事例

実際の企業の事例からは、施策の具体的なイメージや成果のヒントが得られます。ここでは3つの代表的な取り組みをご紹介します。
社内交流イベントの開催
社員同士の関係性を深め、エンゲージメントを高めるうえで、社内交流イベントは非常に効果的です。スポーツ大会やピクニックなどのレクリエーション企画は、部署や役職を越えたフラットなつながりを生み出し、組織の一体感を育てます。
特にリモートワークが定着しつつある今、「顔が見える関係性」を意識的につくることが、組織維持・活性化の鍵となっています。
たとえば、パソナグループでは全国の従業員とその家族が参加できる「ファミリーデー」を毎年実施しており、職場の雰囲気を家族にも共有することで、企業への信頼と誇りを高める機会となっています。
研修合宿等の実施
社員同士の交流にとどまらず、理念や事業理解の深化を目的とした合宿型研修も、社内マーケティングの一環として有効です。
サントリーホールディングスでは、社員研修の一環として「天然水の森」での森林整備体験を実施しています。自然と向き合うプログラムを通じて、自然との共生という企業理念を体感することができ、事業への理解と共感が深まる設計になっています。
部活動の推進
リクルートをはじめとする多くの企業では、社員が自主的に立ち上げた部活動が活発に運営されています。共通の趣味や関心を軸とした活動は、業務とは異なる文脈での人間関係を育み、職場の心理的安全性を高める役割を果たします。
部活動は単なる余暇活動にとどまらず、「自社に属することへの誇り」や「帰属意識」の醸成にもつながる重要な社内マーケティング施策のひとつです。社員主体で進めるからこそ、自然な形でのエンゲージメント向上が期待できます。
まとめ:社内マーケティングが組織に活力を生む

社内マーケティングは、単なる社内施策ではなく、エンゲージメントという企業価値の源泉を育てる戦略的な取り組みです。
社員を「社内の顧客」と捉え、理念や商品への理解、行動変容を促すことで、組織全体の活力が向上し、結果として顧客満足度やブランド力にも波及します。
一方で、社内施策は往々にして「やりっぱなし」や「コンテンツが形骸化する」リスクを伴います。また、社内マーケティングは非常に重要な取り組みですが、社外マーケティングやSNS、PRなど社外向け施策と連動させてこそ真価を発揮します。
シェイプウィンでは、こうしたマーケティング・広報施策を横断的にサポートしています。無料相談も承っていますので、まずはお気軽にご相談ください。