【書評】『メディア・コミュニケーション[入門]〜対応から活用へ』(ウィリアム・ J・ホルスタイン:ファーストプレス)

著者:梅下 武彦

手と本

毎日平均14点。年間約5,000点の新刊ビジネス書が刊行されています。
ビジネス書は実に短命です。半年もすれば陳腐化・劣化します。話題やベストセラーでもない限りほとんどの人たちに知られること、手にされることなく絶版リストで順番待ちとなります。
そうした消えていったり知られなかったりした中にも、いま読んでもヒントが詰まっている本はあります。今回は、そうした中から紹介します。

刊行時(08年)、私はこの本を知りませんでした。偶然立ち寄ったブックオフで発見しました。既読の人もいるでしょうがあえて紹介するのは、本書の内容を伝えることで皆さまに少しでもヒントなどを提供できればと考えたからです。

もし、書評が「読者代行」(斎藤美奈子の表現)であるとするならば、この本を読んだことでの気づきや示唆、学びなどを多くの人たちにお伝えすることこそ、意義と価値があることだろうと思っています。

本書はPR戦略をどのように経営に機能させ、いかに企業戦略に組み込むべきなのか、そうした課題を抱えている業務担当者たちにはとても示唆に富んだ内容で、今日のPRとメディアとの関係に対する視点やそのあり方について理解することができます。

ジャーナリストが書いたPR戦略の本

原著は、ハーバードビジネススクールの“Memo to the CEO”シリーズの1冊として2008年に同スクール出版部から刊行されました。
このシリーズには、ほかにも経営者、マーケッター、財務責任者などのビジネスパーソン向けに書かれた本がすでに出版されています。

著者ウィリアム・J・ホルスタインは、大企業やCEOにかかわるビジネス取材・執筆・編集者歴30年で、現在は『ニューヨーク・タイムズ』でビジネスコラム欄を担当しているベテランジャーナリストです。

PRの専門家や研究者ではなく、ジャーナリストが著したマーケティングコミュニケーションの本というのも珍しいです。

ところで、本書は翻訳本であり、語られている事例や内容はもちろん米国を中心としたビジネスです。

これはマーケティングや企業・経営戦略について顕著なのですが、残念ながらどうしても米国の著者が著した本の視点や考え方が私には示唆に富んでいることが否めません。私自身、ずっと情報や知識または示唆などはそれらから多くを学んだり吸収してきたりしたからです。
読者の中には、文化やビジネス慣習がどうしても異なるので、海外事例を基にした考え方のビジネス書を読むことに違和感のある人たちがいることも知っています。

しかし、国内事例については、数あるビジネス雑誌(週刊誌や月刊誌)でも特集や紹介がたびたび組まれますし、むしろそれらを読めば最新の情報を得ることができるというのが私の考え方です。

それに、「有益な書物でも、読書の半分はその読者自身によってつくられる」という格言もあります。
ですから、そうした心構えで翻訳書と向き合えば、読む人自身が様々な気づきやヒントなどを引き出すことができます。

守勢ではなく、攻勢によるPR戦略への転換

アメフト選手

一言で言えば、上記がホルスタインのメッセージです。彼は「広報は戦略の一部」と明確に言い切ります。
すなわち、これまでのメディア関係者たちとのコミュニケーションだけ(対応)ではなく、多種多様なメディアが存在する今日の社会では、あらゆる人たちと積極的にコミュニケーションすべき(活用)であり、そのあり方について述べています。

現在の日本でも、PRは企業(経営)戦略に組み込むべきだとする意見は散見されます。
本書が刊行された2008年ごろ、実は米国でもそう主張しなければならない状況だったのです。
著者の主眼もそこにあり、PR担当者よりもむしろ経営陣、その他の部門マネージャーやリーダーたちに向けて語っています。

ここに綴られている数々のエピソードに接すると、米国の大手企業でもPRへの認識不足、誤解や無理解の実情について知ることができます。
自分たちに都合のよい記事や発言について報道(お仕着せ)するようにメディア手なずける(コントロール)担当者がいればよい、というような誤解をしている経営者が少なくないということです。

どうしてかというと、PRは広告やセールスプロモーションとは違い、効果指標を可視化(数値化)しにくいので「つかみどころがない」と考えているからです。
しかし、事が起こってからあわてて対応する受け身でPR戦略を実施しているようでは遅く、それを未然に防ぐための先手の戦略と地道で継続的なコミュニケーション活動こそが求められているのだと主張します。

最近、国内でもよく耳にする「攻めの広報」という言葉は、まさにそうした姿勢や態度でメディアコミュニケーションを組み立てて活動に臨むことであり、PRパーソンは経営者の“コミュニケーション参謀”と心得るべきなのです。
PRの発祥の地である米国でさえ、メディア環境の激変に強いられるように認識を新たにせざるを得なくなっています。

一方で、シリコンバレーのハイテク企業は、PR巧者で積極的なコミュニケーションを実施している実情がうかがえます。

こうした最新の米国事情については、本ブログで神村氏による『【セミナー報告】シリコンバレーのPR業界について』ですでにご存じのことと思います。
また、同セミナーに参加していた私も『21世紀的カフェ文化の地ーー「シリコンバレーにおける最新PRトレンド」に参加して』という記事を書いていますので、あわせてご笑覧願えればうれしく思います。

私の経験から判断しても、国内でも大企業よりベンチャーやスタートアップのみなさんの方が、PR戦略の嗅覚(マインド)に長けていると感じています。

PR戦略について必要なメディアリテラシー教育(学習)

PCとスマホ

アル・ライズの著書“The Fall of Advertising and The Rise of PR”で語られている“PR First, Advertising Second”という視点や着想は、今日の米国ではコミュニケーション戦略の中心にすえるあるいは常識となりつつあります。
また、国内の先進的ないくつかの企業でも、同様の発想で取り組みを開始し成果を上げつつあります。

オーディエンスとダイレクトにコミュニケーションすることが可能になり、それまでの企業都合によるコミュニケーション、情報格差が解消され、オーディエンス主権、オーディエンス情報優位な環境をもたらしました。

ソーシャルメディアは確かにオンライン上でのつながりなのですが、その担当者は私たちの日常でリアルな人々と接するのと同様、実際に面と向かって人と接する姿勢や態度、配慮と真摯さなどが求められます。
ですから、その担当者の人間性がソーシャルメディアから透けて見え(分かっ)てしまうということを肝に銘じておくべきなのです。

私自身はこうした考え方をしているので、Social Mediaは「社会的なメディア」ではなく、「社交的なメディア」と受け取るべきと常に人には話します。

企業の顔は、大企業やベンチャーを問わず経営トップです。
なぜならば、ビジネス誌や新聞などのメディアでのインタビューに対応する場合、その企業を代表してメディアに登場し、その発言内容は広く多くの人々の目にとまりソーシャルメディア上でシェアもされるからです。
すなわち、自社ブランドの伝道師という自覚を持っていなければなりません。

その軸を形成するのが、現在ではPRになっています。
それは、もはや一種の「社会参加活動」であり、法人でも一個人のコミュニケーションと同じ姿勢だと、私が主張する所以もそうしたことにあります。

昨今、主に若年層によるソーシャルメディアの投稿がしばしば炎上してメディアを賑わせ、そのリテラシーの低さに対しメディア教育の必要性が各方面から指摘されています。

しかし、ことPR戦略に関していえば、多くの経営者はメディアとのコミュニケーションリテラシー教育の必要があり、意識を変えどのような心構えや態度、話し方や振る舞い方で臨むべきなのか。
それが、本書でホルスタインの語っていることです。

最後に、私は出先にブックオフがあれば、必ず立ち寄ります。そうしてマメにチェックしていると、刊行されたことも知らず、読み逃している良いビジネス書の発見、あるいは嬉しい拾いもの書とのめぐり逢がきっとあります。

皆さまも、是非お試しください。