【書評】『ソーシャルメディア論〜つながりを再設計する』(藤代裕之編著:青弓社刊)

著者:梅下 武彦

人のコメント

今回、PR業務だけではなくコミュニティ運営など広くコミュニケーションビジネスにたずさわる人たちに、読むことで気づきやヒント、示唆を得られる図書をご紹介いたします。PR活動にも密接に関わるソーシャルメディア(SNS)についてです。

SNS誕生から約15年

SNSが米国で誕生してからおよそ15年。

当時はそうした名称もなく、CGM(Consumer Generated Media)/とかUGM(User Generated Media)などと呼ばれ、米国や日本でも一部の先進的なネットユーザーたちだけが利用するサービスでした。掲示板やブログがこれに当たります。そうしたころはSNSとは何なのかを説明することからはじめるような時代でした。

2006年、Web2.0という言葉が誕生して以来、画像(写真など)、動画、メッセンジャーなど多彩なSNSが続々と登場し、日本では2010年にtwitter、2011年にはFacebookの大きな伸展があり、加えてスマホの普及という追い風もあって、ほんのこの数年で今では誰でもが利用する日常的なコミュニケーションツールにまで発展してきました。

一方で、つながりすぎによる疲れや続発するネット炎上、プライバシー、著作権侵害など多くの問題が浮き彫りになっています。米国では、将来はマーケティングコミュニケーション関連のビジネス(広告、PRなど)でキャリアをめざす人たちは、様々なメディアに関するリテラシーについて大学などで学ぶ機会が用意されています。

そのほかにも、心理学・社会心理学など人間の心のありようやコミュニティにおける人々の態度についても学び、したがって、そうしたキャリア形成に必要な基礎的な知識を体系的かつ総合的に身につける傾向にあります。

一方、日本の大学ではそうしたケースは決して多くはありません。

大学の様々な学部の出身者たちは、社会人になってから自分たちがかかわるビジネスや業界、業務について学んでノウハウを得ていきます。ですから、ほとんどが実際に社会人になってから、所属する企業や組織の知見から情報を得ることになります。

日常の業務に忙殺され、自分の業務について体系的に理解をしようと思ってもなにから学んだらよいのか迷う人たちも多いことでしょう。日本ではビジネスパーソンの多種多様な勉強会が盛んですが、そうした事情も背景にはあるのではないでしょうか。

PR活動に密接に関わるSNS、ヒントを与える1冊

昨今、PR活動においてSNSは切っても切り離せないものとなってきました。PRは、メディアと繋がる「メディアリレーション」に偏りがちですが、SNSやITの力によって直接ユーザーと繋がる「ユーザーリレーション」がより具体化しています。そこで、企業の広報としてSNSでできる事は何かPRの視点からオススメできるSNSの書籍をご紹介します。

『ソーシャルメディア論〜つながりを再設計する』(藤代裕之編著:青弓社刊)

ソーシャルメディア論〜つながりを再設計する

本書は、大学での情報社会学、メディア論、コミュニケーション論、ジャーナリズム論などの基礎テキストとして執筆されました。

元々は執筆者たちが参加している研究会の2年間にわたる討議の成果として、ジャーナリストの藤代裕之を中心に、各章を担当する編集者、ジャーナリスト、経営者、コンピュータサイエンティストなどの専門家12名による執筆陣が、各々担当者によるそれぞれの章を書いています。

大きくは次のような過去・現在・未来の3部からなっていて、それら各部に付随していくつかの章が設けられ15章で構成されています。

<第1部>歴史を知る
<第2部>現在を知る
<第3部>未来を考える

以下、本書の内容を私なりに簡単にご紹介をいたします。

なお、各章のより詳細な内容については、下記の版元サイトにてご確認くださるようにお願いをいたします。

「第1章:歴史」では、パソコン通信、メーリングリスト、掲示板などの「つながり」の時代からはじまり、2006年以降の10年間のソーシャルメディアの歴史や全体像について俯瞰することで通史的に把握することができます。

「第2章:技術」、「第3章:法」「第9章:権利」、「第12章:共同規制」、「第15章:人」など、プライバシー、著作権など法律や規制(ルール)など、最近の様々な問題点について理解を深めることができるでしょう。

「第4章:ニュースメディア」、「第5章:広告」、「第7章:キャンペーン」などは、PR業界の人たちを含め、とくにマーケティングコミュニケーション業務にたずさわっている人たちが読むと多くのヒントや学びがあるでしょう。

さらに、SNSをはじめとしたコミュニティ運営に関わる人たちは、「第8章:都市」、「第11章:メディア」、「第15章:人」が大いに参考となるでしょう。

また、教育現場、企業の新人研修をはじめとして人事関連部門の人たちには「第13章:システム」、「第14章:教育」などの章から読みはじめるとよいかもしれません。

このように、本書はPR業務、ソーシャルメディア運営の業務にかかわっている人たちには、再度、業務全体を俯瞰し全体像を把握し直すよい機会となるでしょう。

また、各章の末にある「文献ガイド」をあわせて読むことでPR業務あるいはメディアやコミュニケーションについてさらに深く理解をすることができるでしょう。

とくに読み手に不得手であったり、曖昧な理解であったりした点がある場合、本書を通じてそうした部分を発見したり気づかせてくれることがあるでしょう。

SNSとPRを深く学ぶための参考図書

最後に、本書とあわせて読むことをおすすめする図書3冊も下記にご紹介いたします。

『アーキテクチャの生態系〜情報環境はいかに設計されているか』(濱野智史著:ちくま文庫)

アーキテクチャの生態系〜情報環境はいかに設計されているか

若手の社会学者として知られる著者の代表作です。この本は2008年にNTT出版から刊行された同書の文庫化です。

本書は、著者が慶應義塾大学SFCの研究科に在学していたときの修士論文が基になっています。そうしたこともあり、この本も大学で情報社会学やメディア論でのテキストとして利用されることが多いようです。また、巻末の参考文献が充実していることもありがたいですね。

『フィルターバブル〜インターネットが隠していること』(イーライ・パリサー著:ハヤカワNF文庫)

フィルターバブル〜インターネットが隠していること

本書は、2012年刊『閉じこもるインターネット〜グーグル・パーソナライズ・民主主義』(早川書房)を文庫化に際して改題したものです。

世界中でのつながりが、多様性と理解促進による寛容をもたらすと語られてきたインターネットが、実は知らず知らずのうちに偏った情報接触がもたらす同質化や分断を進行させつつある今日の社会を指摘し、それを「フィルターバブル」(原著タイトル:The Filter Bubble)という言葉で著して一躍メディアでも話題となりました。

『パブリックリレーションズ<第2版>〜戦略広報を実現するリレーションシップマネジメント』(井之上喬著:日本評論社)

パブリックリレーションズ<第2版>〜戦略広報を実現するリレーションシップマネジメント

本書も、一部の大学ではPRについて学ぶための基本テキストとして利用されています。2006年初版刊行から約10年ぶりに改訂されたばかりです。

これからPR業界をめざす人たちだけではなく、すでにPR会社や企業でそうした業務に携わっている人たちには、業務の全体を体系的に把握するには最適な本だろうと思います。