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セルフレジの波:テクノロジーによる接客の新時代

セルフレジ

これまでにもコンビニやスーパーなど小売店ではセルフレジは導入されていましたが、ここのところ牛丼などの飲食チェーン店では「セルフオペレーション」が増え、それを日常的に利用している人も多いでしょう。

これはいわゆる「セルフサービス」あるいは「セルフオーダーシステム」とも異なります。飲食店を例に取れば、料理の注文から配膳、下膳、会計にいたるまで全て利用者自身が行い、調理以外は店員による接客が一切介在しない店舗運営の仕組みのことです。

そうした店舗オペレーションは、人出不足解消と店舗運営の効率化いう点から導入が加速し、それぞれの業種や業態によってそのオペレーションの仕組みは様々あります。

今回、伸展・拡大しつつあるこの「セルフオペレーション」について考えます。

コロナというピンチがもたらしたチャンス

Change

今日、人出不足はどこでも切迫している最重要課題です。いわゆるブルーカラーから飲食業界、ホテルなどの宿泊業界や介護などのサービス産業、さらにはデジタル分野のIT技術者にいたるまで、業界・業種を問わず人手不足は深刻で大きな社会的課題となっています。

例えば牛丼チェーン店、コンビニなどを利用してわかることは、日本人店員はいなくてすべてが外国人労働者たちだけによる店舗もあり、製造業、建設業、卸売業、小売業、サービス業のすべての産業において、外国人労働者の支えがなくては運営や事業継続が難しい中小零細企業が多いのが実態です。

厚生労働省が発表した、国内の事業主に雇用される外国人労働者(特別永住者、在留資格「外交」・「公用」の者、不法就労者などを除く)は、令和4年10月末現在で約182万人と過去最高を更新

少子・高齢化による労働力人口の減少は何年も前からわかっていたことです。政府によって1993年に導入された「外国人技能実習制度」、2015年に法案が成立した「女性活躍推進法」、2018年6月には「働き方改革法案」が成立、2019年4月から「働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)」が順次施行されるなどの暫時対策を発表しています。

また、男女共同参画や社会の多様性(ダイバーシティ)という意識や考え方の重要性が声高に叫ばれています。それにもかかわらず、根本的な解決にはほど遠い状況です。したがって、人手が足りているという業界はほぼ皆無といっても過言ではないでしょう。

とくに建設業界などのブルーカラー、コンビニや飲食店などのサービス産業では外国人労働者が数多く働いていますし、そうした人たちを雇用しなければ成り立たないほどです。また、タクシー業界も人材が不足しており、流しではなかなか捕まらない状況で配車アプリはある意味では必然なのです。

世界の他の先進国に比べ、日本はいまだに移民を受け入れない国で、その対策の一環としている「外国人技能実習制度」はなし崩し的な暫定移民政策とか奴隷制度などと揶揄され、賃金未払いをはじめ数多くの構造的な問題を抱えています。

働く女性

イギリスの経済誌「エコノミスト」は、3月8日の国際女性デーを前に、先進国を中心とした29カ国を対象に「女性の働きやすさ」を発表し、女性活躍推進法が成立して8年経ってもOECD(経済協力開発機構)に加盟する国のうち、主要29か国中「女性の働きやすさ」では日本はワースト2位、男女間賃金格差は加盟44カ国中ワースト4位、世界銀行の190カ国・地域の男女格差の現状を法整備の進展状況から評価した報告書では104位で、先進国で構成されているOECDに加盟する38か国中では最下位

世界経済フォーラム(WEF)による、2022年の日本の「ジェンダーギャップ指数」は146カ国中125位。さらに、海外に住む外国人のためのコミュニティ形成支援サイト“InterNations”が、「外国人が住みたい・働きたい国ベスト・アンド・ワースト」でもワースト6位という情けない社会環境で、世界基準に照らし合わせればおよそ先進国とは思えないとだれでもが感じるのではないでしょうか。

こうした「ワースト」ばかりがニュースで次々と報道されながらも、状況はなかなか改善されず、人出不足の深刻さは依然として解消されない状況が続いています。

チェーン店で進む「セルフオペレーション」

自動レジ

店舗におけるセルフ化には、これまでにも2つのタイプがありました。

ひとつはレジ係とセルフレジの併設レジタイプで、コンビニ、スーパーなどの小売店ではこうした「セミセルフレジ」システムを多く見かけます。

スーパーの場合は、カゴの商品をレジ係が商品をバーコードに通し、支払いだけをセルフでする店、自分で商品をバーコードに通し支払いまでする完全セルフレジシステムを採用している店と2つのタイプがあります。スーパーの混雑時、レジで長蛇の列に並ぶストレスはおそらく誰でも経験があるでしょう。

都内の大型書店でも、併設レジタイプが導入されています。新宿の紀伊國屋書店、ジュンク堂書店の池袋本店や吉祥寺店もこのタイプです。レジ係カウンターの横にセルフレジが用意されています。本を選び、このセルフレジで会計してブックカバーも自分でするようになっているので、人を介することがありません。

飲食チェーン店(牛丼など)では、カウンターやテーブルの専用端末から注文するシステム、最初に自動販売機でチケットを購入する2つの利用方法がこれまでにもありました。

牛丼チェーン店は、各社によってオペレーションが異なっていますし同じチェーン店でもシステムがまだ統一されていません。こうしたチェーン店はカウンター席が中心で、コロナ禍で来店客数が減ったなかで従業員のマスク、アクリル板などの仕切り設置、消毒用アルコール、手袋などの出費、人件費の高騰などが経営を圧迫していました。

コロナ禍がおさまった現在では来店客数が戻ってきたことに加え、ウーバーや出前館、メニューなどのフードデリバリーサービスによる注文対応もあり、人出不足と経費削減から店舗オペレーションの効率化はまったなしで、新メニューの開発以上に経営の最優先課題です。

「吉野家」は、座席の端末から注文し配膳係が料理を持ってきてくれ、最後の会計はレジ係が担当します。「すき家」も同じオペレーションです。松屋は、これまでは自動販売機で料理チケットを購入し、番号を呼ばれたら配膳は自分でする方式で、これは接客業務がなしとなっていました。

完全「セルフオペレーション」タイプ

セルフチェックアウト

松屋が始めた3業態複合店舗「みんなの食堂 松屋食堂」では、松屋・松のや・マイカリー食堂という異なる3つの業態を1店舗に集約したものです。

先日(8月2日)、京王線「明大前駅店」がオープンしたので利用してみました。ここでは、入店して注文専用端末機で3店舗のどの店のどの料理かを選んでまずオーダーします。アプリのクーポンを利用する場合、この注文専用端末機で最初にQRコードを読み込ませると自動的にそのクーポン対象のメニューのみが表示され、その中から料理を注文することができます。支払いはその横の自動精算専用機で行い、レシートと番号印字された紙を受け取るシステムです。これまでのような自動販売機とは違い注文と会計は別の端末になっています。

注文受け取りカンターにはダスターが用意されていますので、テーブルが汚れていたらそれも自分で綺麗にします。番号がアナウンスされたら自分で料理を取りに行き、食後は利用者が下膳を自分でして退店。つまり、調理以外は完全セルフオペレーションのシステムを導入しています。これまでのような狭い牛丼店とは違い、店内は1人用のゆとりのあるカウンター席とテーブル席を合わせて、50、60人ほどが入れる広さです。テーブルや床も木目調を活かした清潔感が溢れた店内で女性客も多く、隣で食事している人がそれぞれ違う料理を食べている様子はちょっとしたフードコート的な印象です。

松屋フーズでは、2業態以上のメニューを提供する複合型店舗として「松屋×松のや」「松屋×マイカリー食堂」「松のや×マイカリー食堂」の組み合わせで305店舗をすでに展開しているとのこと。

こうした新しい店舗では、厨房で調理する店員以外、会計まで含めて店員が介在することは一切ありません。カレーより「松軒中華食堂」のほうが、より利用者ニーズや顧客単価による売り上げを多く見込めるはずですが、厨房とくに調理オペレーションの課題で難しいのでしょう。

1人焼き肉のチェーン店を展開している「焼き肉ライク」は、カウンター席の端末で注文し、呼び出しがあると席の番号札を見せて注文を受け取りに行き、下膳はせずに会計はその番号札にあるQRコードを読み込んで支払う仕組みです。こちらも基本的には調理以外は完全セルフオペレーションによる飲食店。ただし、焼き肉は網の交換がどうしても必要で自動化できないため、その交換時に店員が下膳も行っています。また一部店舗では、そうした店員が会計時に同時にレジ応対をしているところもあります。

繁忙時間帯には人出が多く必要な居酒屋。テーブルのデジタル端末から料理を注文する店舗はいくつもあります。飲み放題の場合、ドリンクサーバーを活用でき、料理も番号を呼ばれたら受け取りに行けばよいでしょうし、ロボット配膳との組み合わせも考えられるなど、システムとオペレーションの工夫次第では可能でしょう。今後、そうしたセルフオペレーション化された居酒屋が登場しても不思議ではありませんし、むしろ話題となるに違いありません。

セルフオペレーションで意外だったのは弁当と総菜の「キッチンオリジン」です。それというのも、利用者が幾つかの総菜を好きな量でトレーに盛り合わせて購入できることが、同チェーン店の特長でもあったからです。

しかしコロナ禍の影響で感染や衛生面に配慮して量り売りを廃止し、すべてパック売りに転換しました。そしていまは弁当の注文から精算まで完全セルフオペレーション化がされています。

新しいシステムでは、店舗に入るとコンビニのアマゾンやアップルの電子マネーがボードに並んでいるように、弁当の写真とバーコードが印刷された注文カードがボード一面に並んでいます。そのカードを選び、セルフレジでバーコード精算すると自動的に厨房に注文が入ります。

量り売りを止めてパック売りで全商品をバーコード精算できるようにしたことで、新しい完全セルフオペレーションを実現できるようになったのです。かつての量り売りが好きな人はかなりいると思うのですが、それに戻ることはもうないでしょう。

服

最後はユニクロ。

1点1点バーコードを読み込むことなく、何点あってもカゴごと所定の場所におけば、瞬時に自動精算してくれるシステムとなっています。これは商品ごとに読み込むバーコードではなく、「RFID」による無線タグを活用したセルフオペレーションで、おそらく衣料品だからできるのでしょう。スーパーなどの生鮮食品のようにラップ商品ではまだ難しいでしょうが、これもいずれはテクノロジーが解決してくれるはずです。

この「RFID」による完全セルフオペレーション化が、他の小売業などのサービス産業でどこまで進展ないしは拡張していくのか今後は注目されます。

RFIDタグには何種類(パッシブタグ、アクティブタグなど)かありますが、バーコードPOSシステムに比べるとまだ導入コストがかかります。それでも今後はあらゆる産業や業種で導入され、製造、物流、在庫管理から小売店での売れ行き把握までスピード化が見込まれ、POSシステム以上の革新をもたらすことでしょう。

私たちの社会生活は、RFIDやAIなどのテクノロジーの進化で完全セルフオペレーション化は必然となりつつあります。

「セルフオペレーションネイティブ」時代の到来

セルフレジ 画像

デジタルネイティブは、物心ついたころからスマートフォンやゲーム機、パッド(タブレット)など、デジタルツールに日常的に親しみながら育っている世代を指す言葉です。それと同様に、そうした世代は「セルフオペレーションネイティブ」にも馴染むでしょう。

すでにコンビニなどでは24時間「無人決済店舗」を増やしつつあり、牛丼などのファストフードや他の小売業チェーン店でもこうした完全セルフオペレーションがさらに増えれば、店員を必要としない小売店や飲食店などでの消費行動が日常的で当たり前になるでしょう。いずれスーパーも生鮮食品や総菜調理の担当者以外、完全セルフレジ「無人決済店舗」へと徐々に切り替えてくるに違いありません。

その一方で、ホテルや旅館などの宿泊業、デパートなどの一部サービス産業では、接客とコミュニケーションが重要であることから、同じサービス産業でも人材と運営の効率化はこれからも経営課題として残り続けることになります。ただ、2023年1月31日に閉店した渋谷「東急百貨店本店」では、閉店少し前に行っていた無人レジ店舗の実証実験の事例があるように、今後はデパートなどの小売業でもこうした接客を省いた店舗運営の可能性があります。

8月末、日立製作所と東武鉄道は生体認証によるデジタルアイデンティティの共通プラットフォームの立ち上げを発表しました。日立と東武は、今後は東武グループ傘下のホテル、スポーツクラブ、アミューズメントなど各種商業施設、鉄道への導入も検討し、将来的には東武グループ以外の企業での利用も視野に入れています。

これまでDXというと、どちらかというと一般企業のオフィス業や行政における業務と利用者の手続などペーパーワークばかりが注目されていますが、これまで人の必要だった各種サービス産業のDX化は消費行動に直接結びつくことで、購買行動やライフスタイル、人手不足解消の両方に大きな社会的な影響を与えます。

今後も、テクノロジーがどこまで人々の日常生活に変化をもたらすのか興味は尽きません。

これまで人での接客とコミュニケーションによるサービスの快適さが重要でしたが、「セルフオペレーションネイティブ」が日常となる社会では、デジタルによる快適さ(デジタル端末のUI/UX)と利便性が顧客接点づくりが基本となります。

飲食店であれば、料理のオーダー時に決済を済ませるか(例:松屋)、食後にする(例:焼き肉ライク)か、スマートフォンのネイティブアプリとの連携による情報やクーポンの適宜提供、ポイント還元などのサービスなどに加え、消費行動時の利便性と快適さをどのように提供できるか。例えば実店舗での購入時、これまで商品について店員に確認したり質問したりできたことを、デジタルではどのようにその場で即対応していけるのかも重要な顧客体験の指標となるでしょう。

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梅下 武彦
コミュニケーションアーキテクト(Marketing Special Agent)兼ブロガー。マーケティングコミュニケーション領域のアドバイザーとして活動をする一方、主にスタートアップ支援を行いつつSocialmediactivisとして活動中。広告代理店の“傭兵マーケッター”として、さまざまなマーケティングコミュニケーション業務を手がける。21世紀、検索エンジン、電子書籍、3D仮想世界など、ベンチャーやスタートアップのマーケティング責任者を歴任。特に、BtoCビジネスの企画業務全般(事業開発、マーケティング、広告・宣伝、広報、プロモーション等)に携わる。この間、02年ブログ、004年のSNS、05年のWeb2.0、06年の3D仮想空間など、ネットビジネス大きな変化の中で、常にさまざまなベンチャー企業のマーケティングコミュニケーションに携わってきた。