【書評】サブスクリプション・マーケティング〜モノが売れない時代の顧客との関わり方

Date: 2018.01.24
Category: 広報/PR全般
Written by: 梅下 武彦
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沢山のシーン

みなさんも、“なにか”をきっとサブスクリプションしているでしょう。
テクノロジーのスピーディーな進展が、マーケティングに破壊的イノベーションをもたらしたのではありません。それは、消費者の購買行動に大転換をもたらしたことによる結果なのです。

つまり、企業はけっしてマーケティングの転換を意図(戦略)的な計画に基づいて行ったのではなく、顧客の消費行動プロセスーー認知から態度変容、購買に至るまでーーが激変したことで、変えなくてはむしろ顧客との関係性の構築も維持もできなくなったことをようやく理解したからなのです。

消費のパラダイムシフト

 お金の節約

20世紀においては、<購買=所有>というのが消費行動の基本でした。しかし21世紀の今日、まさに「スペンド・シフト」(ジョン・ガーズマ/マイケル・ダントニオの言葉)した社会が到来しています。

こうした消費パラダイムシフトは、テクノロジーだけが要因ではありません。

古くは「シンプルライフ」という考え方がありましたし、数年前からロハススローライフなどが語られています。
最近よく耳にするフェアトレード、エシカル消費、2015年の新語・流行語大賞にノミネートされたミニマリストなど、消費者自らの購買行動そのものが社会のさまざまな課題の解決につながるあるいは貢献したい、できるだけモノを持たない暮らし方をしたいという意識の変化があります。

こうした傾向は、米国では2001年アメリカ同時多発テロ事件(9.11)、2008年リーマン・ショックという2度の大きな出来事、日本では2011年東日本大震災(3.11)という大きな災害が、それまでの消費生活についてあらためて考え直す契機となりました。

テクノロジーの進展と社会のそうしたいくつかの大きな出来事などが重なり、多くの人たちが従来のライフスタイルを見直すことが顕著になりました。本書はそうした傾向のひとつ、サブスクリプション・エコノミーについてマーケティング視点で著した本です。

米国ではすでにゾーラ(Zuora、セールスフォースの創業メンバーによるスタートアップ)というサブスクリプション型ソフトウェア開発企業が、サブスクリプション・エコノミー・インデックス(SEI)という指標を公表しています。

マーケター兼ブロガーによる著書

コンピュータコミュニケーション

著者のジャンザーは、スタートアップに在籍していた経験があり、ほかにも数々のテクノロジー企業と仕事をしてきたシリコンバレー(カリフォルニア州マウンテンビュー)在住のマーケター兼ブロガーです。
サブスクリプションモデル導入の企業アドバイザーを務める一方、ジャンザー自身のブログで情報発信し、さまざまなメディアにも記事を寄稿しています。
また、自費出版した著書(『書くために(の)プロセス』未邦訳)が、2016年に出版された最高の1冊にも選ばれ、テクノロジーをテーマにしたマーケターのためのライティング技術コーチとしてワークショップも開催している人です。

原題は、“Subscription Marketing〜Strategies for Nurturing Customers in a World of Churn”(副題を訳せば、「解約の世界で顧客育成するための戦略」)で、本書は原著の第2版(2016年)の邦訳になります(初版は2015年)。

全体は3部構成で、パート1「サブスクリプション・シフト」(1〜5章)では、さまざまな業界や業種でサブスクリプションへ移行している現状、どのようなものがあるか。また、その考え方でコアとなる価値育成(バリュー・ナーチャリング)について語ります。
パート2「価値育成のための戦略」(6〜20章)では、顧客の価値育成のためのいくつかの戦略を提示するとともに、だれもがマーケターという心構えの重要性を説いています。
パート3「戦略の実践」(21〜26章)では、価値育成を実践するための課題やリスク、組織のあり方などについて述べています。

本書の中で取り上げられている数々の企業やサービス(B to B、B to C)は、実際にジャンザー自身が利用あるいは試したもので、それらは日本国内では知られていないものばかりです。
サブスクリプションによるビジネスモデルを検討している企業にはパート2、すでに導入または転換していてさらに成長を目指す企業にはパート3が、それぞれ示唆に富んでいて参考になります。

新しくはないサブスクリプション

積まれた雑誌

サブスクリプション自体はけっして新しいものではありません。新聞や雑誌が昔からそうですし、企業向けではコピー機などは古くからの代表例です。

サブスクリプションでもっとも成長した企業は、企業向けSaaSで有名なセールスフォースですが、現在ではマイクロソフトOffice365、アドビCreative Cloudなども。
一般消費者向けでは、Netflix、Spotify、アマゾン・プライム、アップル社App StoreやグーグルのGoogle Playなどもサブスクリプションで提供しています。

ジャンザーは、こうしたサブスクリプションのトレンドとして、シェアリング・エコノミー、スマートデバイス、IoT、デジタル化などをあげ以下のように述べています。

「サブスクリプションがすべてのビジネルモデルにとって代わることはないだろう。サブスクリプションはあらゆる業界のあらゆる分野で同じように広まっているわけではない。

だが注意深く観察すると、ほぼすべてのところでサブスクリプションというトレンドが生まれているのが分かるだろう。」

先行している国や分野だけに限らず、今後はメディアから消費財メーカー、流通業、さらにヘルスケアビジネス、教育分野など、業界・業種にかかわらずこのビジネスモデルは拡大し続けていくと私は考えています。
昨年、東京の自由が丘にサブスクリプション型カフェがすでにオープンして話題となりました。

サブスクリプション=定額制・継続課金ではない

スタートの旗

サブスクリプションへの移行ーー特に旧来ビジネスモデルでの収益が大きい企業ーーは困難をともなうでしょう。しかし、そうした従来型のビジネスモデル企業がサブスクリプションに移行する場合には、試験導入、一部顧客に提供、全社で一気に取り組むなど、さまざまな選択肢で考えることを提唱しています。

これまで、提供者側からすれば見込み客に販売して顧客として獲得したらそれがゴールでしたが、ユーザー側から考えれば購入した時点がスタートとなるのは当然です。

「サブスクリプション・エコノミーでは、顧客を獲得したときが始まりである。」

とジャンザーも述べています。

つまり、サブスクリプションでは、購入したあとその顧客が常に満足し続けるために、継続的・長期的・安定的な収益を維持し強化していくための活動が継続的な収益(リカーリング・レベニュー)を得ることとして重要になるからです。
そうしなければ、顧客は簡単に解約して新しいサービス、競合や別のサービスにたやすく乗り換える(解約、離脱する)からです。

サブスクリプションにおける解約率をチャーン・レートといいます。
先にあげたゾーラが提供する、サブスクリプション・エコノミー・インデックス(SEI)のによるチャーンレート(年率)の5タイプが、以下のように公表されているので見てみましょう。

1.B to B=26%
2.B to C=35%
3.テレコミュニケーション=29%
4.SaaS=25%
5.メディア36%

上記のなかでもっとも解約率が高いのがメディアです。
また、B to C系プロダクト(テクノロジーを含めたサービスや製品)を提供している企業の解約率もほぼ同じような高さです。
一般消費者は、移り気かつ気まぐれでブランドスイッチすることが日常的ですし、解約する確率が高いということがよくわかります。

このチャーンレートを防ぐのもまたマーケターの仕事で、そのためには、マーケターは頭にできあがっているマーケティング(セールス)ファネルの考え方は捨てなければならない必要性に迫られています。

顧客を獲得したあと、顧客であり続けてもらうことこそが第一義なのです。
そのためにはリテンション、アップセル、クロスセル、カスタマーアドボカシーなど、一連のプロセスこそが価値育成(バリュー・ナーチャリング)とジャンザーが呼ぶものです。

ここでジャンザーは、勘違いしやすい顧客生涯価値(LTV)のような金銭的指標で考えるべきではないと、強く注意をうながしています。
それは、金銭目的で顧客に近づくと、顧客はそうした匂いを敏感に感じ取るものだと。だからアドボカシー・マーケティングで遂行するべきだと。

また、このビジネスの成長を考える場合、重要なことは単純に一定額の定額制や継続課金(月額や年間契約)と画一的に考えないことです。サブスクリプション料金は、顧客に応じて弾力性をもたせることが必要です。

カスタマーローンチプランの作成

家族保険コンセプト

サブスクライバーとなったあと、その顧客にできるだけ早く製品やサービスを利用してもらい、その価値を理解させることです。顧客は早い段階で期待を得られないと解約(チャーン)する率が高まるからです。

そのために、新規顧客に手ほどきや慣れさせて習慣化し定着させるプロセス(オンボーディング)が重要となりますが、そのシナリオがカスタマーローンチプランと呼ばれるものです。

これにはダブルオプトイン(二段階承認)、ウエルカムメール、ガイダンス、動画、ポッドキャストからウェビナー、はてはゲーム的な手法の取り入れなど。また企業向けであればトレーニングプログラムを提供するなどしてとにかく早期の段階で利用しはじめた顧客に満足してもらうことを徹底して行うことが、カスタマーサクセスへと導くことになるとジャンザーは述べています。

また、ブログで役立つコンテンツの提供、SNSなどのソーシャルメディアでコミュニティを活用し、顧客との関係性(顧客同士も含む)を強化することなどについて言及しています。
ただし、こうした外部のソーシャルメディアは、そのポリシーに従わざるを得ませんしルールの変更がされたときには、利用者すべてがそれに従わなければなりません。さらに提供しているコンテンツが、膨大なニュースフィードのなかに紛れ込んでしまう確率も高く、確実に情報を顧客に届けられるという可能性も低くなります。

ですから、自ら所有するコミュニティ(オウンドメディア)を構築することを検討するのも良いでしょう。たとえば、見込み客にはSNS、顧客(サブスクライバー)となってから自社のコミュニティのような使い分ける戦略もあるでしょう。

私自身、いずれオウンドメディアへの指向性がより強まると判断していますし、現在でもコミュニティ構築ツールはいくつかありますが(米国のNing、国産のOpenPNEなど)、今後はさらに新しいツールが開発されるでしょう。

ザ・ライトマージンは、Slackを使った自社コミュニティで成果を上げているので参考となるでしょう。

オフラインでのイベント開催も推奨しています。実際のイベントに参加することで、オンラインで結びつくより強い関係を築くことができるからです。

こうして、顧客をファンに変え、ファンをスーパーユーザーとし、さらにアドボケイト(アンバサダー、エバンジェリストなど)にまで育成していきます。似たようなサービスを提供する企業(競合)は出現するでしょうが、ジャンザーの下記の言葉をかみしめて心に刻んでおいてください。

「他の企業があなたの提供する商品やサービスをコピーすることは可能かもしれない。しかし、あなたと顧客との関係をコピーすることは不可能である。」

ところで、ジャンザーはとある企業から、彼女のメールマガジンでその企業のことを取り上げてくれたら対価を支払うという申し出があったのですが、彼女は即座に断りました。その会社への信頼度は、もちろん低下しました。
支持や支援は得るものであり、買うものではないと。そうしたことは決してすべきではないと。こうした行為(ステマなど)は仮に実施したとしても、いずれバレるものだということを忘れないでください

サブスクリプションでは、無料お試し(フリートライアル)が有効です。
それにより評価するための顧客体験を提供でき、この間に信頼できる企業かどうか検討し、無料お試し後にサブスクリプションするか否か判断できるからです。顧客は、価値を提供してくれ信頼できる企業との長期的な関係を望みます。
この無料お試し期間では、見込み客育成(リード・ナーチャリング)ではなく、価値育成(バリュー・ナーチャリング)を行うことがサブスクリプション成功の要件になると、ジャンザーは強調しています。
企業(マーケター)にとって価値を示し、信頼を得ることこそがもっと重要です。

戦略実施についての2つのテーマ

談笑する笑顔の人

戦略を実施する場合、2つのことを念頭に置くべきだと語ります。
1つは、企業としての指標です。ジャンザーは、スクリプト・マーケティングで以下の5つの指標を提示し、そのいずれかを選択して明確にすることだと。

1.顧客維持率
2.カスタマーチャーンレートまたはレベニューチャーンレート
3.顧客ロイヤリティ(ネット・プロモーター・スコアなどの指標)
4.ARPA(契約者一人あたりの収益)
5.顧客生涯価値

2つめは組織(人材)の問題です。顧客を成功体験に導くには、社内の各部署の協力や支援を必要としますし、全員がよりよい顧客体験を提供する責任を負っていると述べています。
部門間の意思疎通が疎かで、説明不足や言うことが部署によって異なるあるいは連絡に対しての返信がないなど、そうしたことがあれば顧客は会社への信頼性に疑問を感じてしまうからです。連携が悪いまたは怠ることは信頼を損ねることです。

自社にカスタマーサクセスマネジメント(CSMの部署がある場合、マーケティングはそこと連携します。このCSMは、近年ではB to Bやソフトウェア企業の間(セールスフォースやBoxなど)に急速に広まっていて、この部署は、米国カスタマーサクセス・アソシエーション(CSAでは以下のように定義されています。

「マーケティング、営業、プロフェッショナル・サービス、トレーニング、サポートという機能と活動を統合した新しい職種で、サブスクリプションモデルを採用する企業のニーズを満たす。」

ですので、カスタマーサクセスチームは、マーケティングに対して責任があるということです。こうした部署はCCO(Chief Customer officer:最高顧客責任者)が統括することになります。

こうした部署は、大規模で機能分化して複雑になった部門間の分厚い壁のある大企業より、むしろスタートアップの方が有利だといいます。
責任を負っていると述べてい すなわち、スタートアップでは全員がいくつかの役割を担い気心もしれているので、情報や目標を共有し部門間の壁なく協力しあえる環境だからです。

最後に、サブスクリプションモデル企業に共通する課題やリスクについても述べています。

契約(サブスクライバー)後の最大の課題は、顧客の信頼の維持、価値の育成の2つです。

先にも述べましたが、部門間の垣根をもっとも大きな要因に上げています。社内にいるとこうしたことには気づきにくいと注意をうながしています。

また顧客のデータを慎重に取り扱わなかったり(セキュリティ)、複雑な料金体系を設定してしまう(選択肢が多すぎる)ことなどにも留意するよう述べています。

サブスクリプションは、常に顧客に寄り添いながら顧客のカスタマージャーニーに加わりながら、満足度を高めつつ価値育成することが企業の成長にとって必要不可欠なことです。

昨年8月、ジェフ・ジャービス著の『デジタル・ジャーナリズムは稼げるか〜メディアの未来戦略』(東洋経済新報社)の<後編>の書評のなかで、私は以下のように述べました。

「こういうことが、将来についていえると私は確信しています。
デジタルネイティブ世代——フリーミアムやサブスクリプションで育った人たちーーが大多数を占める社会となったとき、メディアやコンテンツに対価を支払うのは常識=当たり前だ、という考え方や感覚を今以上に持っているだろうということです。
つまり、インターネット上の情報が“タダだという時代”は、それほど長くは続かないかもしれないということです。」

スマートフォンが日常化し、IoTも私たちが想像する以上にほんの数年で日常化するでしょう。これからの消費行動の選択肢として、近い将来必ず訪れるであろう消費社会に向け、サブスクリプションとプレミアム(あるいはオプション)課金またはこの両方の組み合わせによる消費形態が、もはや当たり前な社会となっていることは確かです。

「5年以内に、すべてのものにサブスクリプションという選択肢が生まれるーーそして、企業はどこもその現実に対応しなければならなくなる。」

とジャンザーも語ります。

 コーヒーとノート

本書は、マーケターにとってサブスクリプションを採用・導入するにあたり、どのような考え方や心構えが必要で、どう戦略を組み立てて実行し、直面する課題にはなにがあるかなど、サブスクリプションビジネスの基本を理解するのを助け一通り把握することができます

加えて、経営者層や戦略立案の担当者には、「トリプル・ボトム・ライン」(社会・環境・経済の三位一体)のコンセプトをビジネスモデルに組み込み、「Bコープ」——それは、社会貢献を目指す営利企業——と呼ばれているさまざま企業の活動事例から、多大な気づきや学びを得ることができます。

また、巻末には本書の中でも言及されたジャンザーによる「推薦図書」がまとめられており、それらをあわせて読むことでサブスクリプション・マーケティングへの理解をより一層深めることもできるでしょう。

今後、このテーマでの著書も増え、さらに新しいフレームワークも登場してくるでしょう。

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